妊娠中の患者さんにCTを撮るときの考え方:ICRPの提言を踏まえて実際どうするか

研修医・若手医師

妊娠28週の女性が激しい頭痛を主訴に来てるけど、頭部CTって撮ってもいいんだっけ?

妊娠8週の女性が右下腹部痛主訴に来院してるけど、腹部CTって撮ってもいいのかな?

救急外来で妊婦さんの診察をする時にこんなことで悩んだ事無いでしょうか??

学生の時には「女性をみたら妊娠と思え!」とか聞いたり、「妊娠中は胎児が被曝するからX線やCTは禁忌!」というイメージを持っている人がいるかもしれません。

しかし現実には上の例のように悩む状況があり得ます

最初に結論から言うと

  • 妊娠中であっても、重篤な疾患の可能性があればCTは撮影すべき
  • 頭部CTは胎児への影響低い
  • 腹部/骨盤CTは必要性を十分検討し、エコーなどで代替できないか検討
  • 腹部/骨盤CTはできるだけ撮像回数を減らす(単純+造影2相などは極力控える)

この記事で妊娠中のX線やCTについてどのように考えるべきなのかについて解説し、上記の結論について理解できるようになります。

また実際に現場ではどうするべきなのかについても踏み込んで解説していきます。

目次

ICRPの妊婦と医療放射線に関する提言の概要

ICRP(International Commission on Radiological Protection:国際放射線防護委員会)というところが妊娠と医療放射線に関する提言をまとめています。

まずは重要な部分の本文をほぼそのまま載せます

受胎後第3週から始まるとされている主要器官形成期の残りの期間では、被ばく時にとくに発生段階にある器官を中心に、奇形が起こるかもしれない。

これらの影響には,100〜200mGy あるいはそれ以上のしきい線量が存在する。この線量はほとんどの放射線診断、核医学診断の際の線量に比べて高い。たとえば3回の骨盤 CT、腹部あるいは骨盤に対する20回の通常のX線診断でも、胎児線量が100mGyに達することはないであろう。100〜200mGy での奇形のリスクは小さいが、線量の増加に伴いリスクは増加する。

要約すると

 

  • 胎児に特に影響があるとされる器官形成期(3週〜16週程度まで)に100mGy以上の被曝があると奇形が起こるかも
  • 骨盤CTだったら3回までならおそらく大丈夫

という事です

胎児が受ける放射線量についての目安が以下の表になります

胸部X線は0.01mGy未満、頭部CTはなんと0.005mGy未満です

これだけ低ければ、妊娠の期間中に数回撮った程度ではほぼ影響は無いと言えます

もちろん妊娠中に限らず、不要であればできる限り避けるのが原則です

一方で骨盤のCTは平均25mGyと高く、計算上は4回以上撮ると100mGyに到達する可能性があります

この数値を理由にICRPの提言内では「骨盤CT3回まではおそらく大丈夫」という表現になっています。

では実際にCTを撮るか迷う状況でどうするべきか、について解説していきます。

妊娠中の患者さんにCTを撮る時に実際にどうするべきか

妊娠中の患者さんにCTを撮るか迷うような状況で、どうするべきかについて最初に述べた結論を再度書きます

妊娠中のCT検査のポイント
  • 妊娠中であっても、重篤な疾患の可能性があればCTは撮影すべき
  • 頭部CTは胎児への影響低い
  • 腹部/骨盤CTは必要性を十分検討し、エコーなどで代替できないか検討
  • 腹部/骨盤CTはできるだけ撮像回数を減らす(単純+造影2相などは極力控える)

まず大事なこととして、重篤な疾患の可能性があれば妊娠中であってもCTは撮影する必要がある、ということです

妊娠中はくも膜下出血含む脳卒中や、大動脈解離などのリスクが上がるという報告もあったり、高エネルギー外傷などもありえます

診断が遅れて母体の状態が悪化すれば、当然胎児の状態にも悪影響があります

治療のために必要であればCTを撮ることが重要になります。

頭部CTについては前に述べたように胎児の被曝量は0.005mGy未満とわずかであり、ほとんど影響が無いと考えて良いでしょう

妊娠中は脳出血の頻度も上がるため、妊婦が意識障害で搬送されればすぐに頭部CTに行くべきです

腹部・骨盤CTの考え方

「妊婦さんが腹痛を訴えて受診したが、産婦人科的には問題無さそう」

という場面で腹部/骨盤のCTを撮るか悩む場面があるかと思います。

まずは状態が落ち着いているのであれば、腹部エコーで代替できないかを検討してみる必要があります。

胆石・胆嚢炎(妊娠は胆石症のリスクになります)であればエコーで診断できる可能性が高いですし、経験のある技師さんであれば虫垂の描出も可能かもしれません。

エコーで診断がつかず、腹部・骨盤CTを実施する場合ですが、単純CTで撮るか、造影CTを撮るならば2相必要かについて議論する必要があります。

もし単純+造影2相を撮ると合計3回CTを撮ることになります。

ICRPの提言内では「骨盤CT3回まではおそらく大丈夫」という表現ですが、安全域を見込むと実際は2回までが無難かと思われますし、できれば単純のみまたは造影1相のみで1回にとどめた方がより安全です

多発外傷などで造影2相が必要な場合であっても単純CTを省略することは可能です

JATECでは、妊婦に限らず造影CT施行時に単純CTを省略することを推奨しています。

そして産婦人科医や外科医など関係しうる医師と、そもそもCT施行するべきか、そしてCTを撮るならどの条件で撮るかについてしっかりと事前に話し合うことが重要になります。

CTを施行した後に、「やっぱり造影が必要だった」や「この症状であればもう少し経過観察してからCTを考えるでも良かった」などと言われてしまうと辛いですよね。

疑っている疾患にもよりますが、最低でも産婦人科医とは協議した上で検査を進めるのが良いでしょう。

まとめ

妊娠中の患者さんにCTを撮るときのポイントについて解説しました

  • 妊娠中であっても、重篤な疾患の可能性があればCTは撮影すべき
  • 頭部CTは胎児への影響低い
  • 腹部/骨盤CTは必要性を十分検討し、エコーなどで代替できないか検討
  • 腹部/骨盤CTはできるだけ撮像回数を減らす(単純+造影2相などは極力控える)

そして腹部/骨盤CTに関しては事前に産婦人科医や外科医など関係しうる医師と十分相談してから実施する、ということも重要になります。