マムシに咬まれたって、初めて診るしどうしたら・・・
たしか傷を切開して、しっかり駆血しといた方がいいとかだったような
抗毒素血清は全例入れたほうがいいのかな?
セファランチン??聞いたことないけど入れといたほうがいいのかな??
マムシ咬傷ってガイドラインとか無いので対応に困るよね。
切開や駆血もエビデンスは無くてむしろ害かもしれないんだ
救急外来で実際にどう対応したら良いのか、初心者でもわかるように解説していくよ!!
目次
マムシ咬傷のエビデンス
マムシは日本の固有種で、中国や韓国に一部生息しているようですが、基本的にマムシ咬傷のエビデンスは日本での症例報告、症例集積がメインです
なので質の高いRCTなどはもちろん存在せず、ガイドラインもありません
2022年にNEJMから蛇咬傷(蛇毒)に関するreviewが発行されており、それの一部を参考にしつつ、日本からの報告(症例集積)、筆者の経験・考えに基づいてマムシ咬傷を救急外来で実際にどう対応するのか、について解説していきます
マムシ咬傷の対応の要点
指輪を外す
手を咬まれた場合に、まず重要なのが「指輪を外す」です。
マムシに咬まれた手足は時間が経つにつれてパンパンに腫れてくるため、咬まれた手に指輪があればすぐに外しましょう。
指輪が外しにくい場合は、石けんの泡やオリーブオイルなどで滑りやすくさせると外しやすくなります。
切開や駆血はしない
マムシ咬傷に限らず蛇咬傷に対して、毒を排出するために咬まれた場所を小切開する、ということが昔はあったようですが、これは効果不明でありむしろ新たな傷を作ってしまうことになるため推奨されません。1),2)
また毒が回らないように腕や足を駆血する、というのも効果不明なだけでなく患肢の虚血を助長する可能性があり推奨されません。
いずれも効果不明かつ害がある可能性があるという事になります。
前腕・下腿まで腫脹があれば抗毒素血清投与
マムシ抗毒素血清の適応についても、エビデンスは乏しいのが実情です。
ただし、抗毒素血清を投与しなかった症例集積で従来の報告と比較して入院期間が延びたなど抗毒素血清の効果が示唆される報告はあります。
毒素を中和するという作用機序も踏まえると、重症化する可能性があれば投与することの妥当性は一定程度あると思われます。
ただし、抗毒素血清にはアナフィラキシーと血清病の副作用があり、全例投与はリスクが高いとされます。
マムシ咬傷の20-30%は傷が浅く毒素が注入されず(dry bite)腫脹が全く見られないものもあります。
マムシ咬傷は腫脹の程度などでGrade分類があり、GradeⅢ以上で抗血清が投与するという意見が主流です
GradeⅢは「肘関節または膝関節までの発赤・腫脹」となっており、咬まれたのが上肢であれば前腕、下肢であれば下腿まで腫れてくれば抗血清の適応と考えて良いでしょう。
抗血清投与前にエピネフリン筋注
マムシ抗毒素血清投与によるアナフィラキシーの発生率は数%とも言われ、頻度が少なくありません。
抗毒素血清の前投与薬に関するメタアナリシスによれば、エピネフリンを前投与することでアナフィラキシーの発生が有意に減少した(RR0.32)とあります。4)
アナフィラキシーの頻度が高いことからすると、エピネフリンの前投与(0.3mg筋注)を抗毒素血清投与する症例に行うことは妥当性があると考えます。
セファランチンはおそらく不要
マムシ咬傷の治療で調べると出てくるのがセファランチンです。
なんとなく抗菌薬っぽい(?)ネーミングですが、主成分はツヅラフジ科植物から抽出されたアルカロイド、です。
マムシ咬傷に経験的に使用されてきた薬ですが、もちろん効果があるという質の高い研究はありません。
症例集積の文献の著者も、「データでは効果が示せなかったが副作用も少ないため我々は投与する方針である」というニュアンスでコメントしています。3)
あくまでも個人的な見解ですが、効果が示せない(かつなぜ効果があるかも今ひとつはっきりしない)のであれば必ずしも使用する必要は無いと思っています。
まとめ
マムシ咬傷の救急外来での対応の要点について解説しました。
質の高いRCTがほぼ無く、ガイドラインも存在しない状況でどうしていくのかは手探りな部分もあるのが事実です。
これまでの報告や、数少ないreviewなどを参考にしつつ私個人の意見も交えての解説ですので、「これが正解だ!」というわけではありませんし、これとは異なる意見も否定しません。
あくまでも一つの考え方として、マムシ咬傷をみた経験が少ない方への参考になれば幸いです。
参考文献
1) Seifert SA, Armitage JO, Sanchez EE. Snake Envenomation. N Engl J Med. 2022 Jan 6;386(1):68-78. doi: 10.1056/NEJMra2105228. PMID: 34986287.
2) 神田和亮,井上啓爾,北島知夫,他.マムシ咬傷 46例 の 検 討. 日 臨 外 会 誌 2005;66:1555─ 1559.
3) 吉 峯 宗 大、瀬 山 厚 司、菅 淳、他.マムシ咬傷67例の検討.日農医誌 68巻 4 号 468~474頁 2019.11
4)Habib AG. Effect of pre-medication on early adverse reactions following antivenom use in snakebite: a systematic review and meta-analysis. Drug Saf. 2011 Oct 1;34(10):869-80. doi: 10.2165/11592050-000000000-00000. PMID: 21879781.