「めまい」の患者さんをまだあまりたくさん診たことがない人
「めまい」をポケットマニュアルで調べて一通りの知識はあるけど実際の診療ではまだ自信がない
という人向けの、危険なめまいを鑑別するための3つのコツを紹介します。
目次
患者さんの「めまい」は“僕らの考えるめまい”と一致しているか
一つ目の鑑別のコツは、患者さんが「めまい」という表現をしたらそれが本当に僕らの思っているめまいなのかを確認する事です。
“僕らの思っているめまい”とは天井がぐるぐる回る(回転性めまい)や、地面が揺れる感じ(浮動性めまい)の事です。
どちらであっても中枢性めまいか末梢性めまいかという鑑別がはじまるわけですが・・・
ところが、患者さんはそんな知識は無いのが普通で、しかも「めまい」を経験したのは今回が初めてという人も多いです。
するとどうなるかというと、僕らの思っているめまい以外の症状でも「めまい」と表現される事が珍しくないんです。
よくあるのは眼前暗黒感を「めまい」と表現されるパターンです。
心筋梗塞で右冠動脈が閉塞して、完全房室ブロックとなって徐脈と血圧低下がある患者さんが、救急外来を自力受診された時に、来院理由を「めまい」と表現された事がありました。ですが詳しく話を聞くと、立っていると目の前が暗くなってきて意識がなくなりそうで立っていられない、という症状でした。
これはやや極端な例かもしれませんが、眼前暗黒感を「めまい」と表現される患者さんは一定数います。
そして眼前暗黒感が主訴であれば失神に準じた鑑別疾患(不整脈や消化管出血など)を挙げて診断していくことになるので、回転性or浮動性めまいの鑑別疾患とは全く異なります。
また、倦怠感でしんどくてふらふらで立っていられないという状態を「めまい」と表現される症例も経験します。その場合は当然倦怠感の鑑別を進めていくことになります。
迷路の入り口を間違えると正しいゴールにたどり着かない
ということを意識して、問診をとるようにしましょう。
めまいに先行した頚部痛が無いか確認する
中枢性めまいが鑑別に挙がった時には必ずめまいの直前(または同時に)首が痛くならなかったか確認しましょう。
頚部痛(頭痛のこともあります)を伴っているのであれば、椎骨動脈解離に伴う小脳・脳幹梗塞を考える必要があるからです。
めまいの患者さんはめまいと嘔吐の症状でしんどいので、こちらから積極的に聞いていかないと症状の詳細を話してくれない事があります。
なので、必ずこちらから首が痛くならなかったかを確認する習慣をつけましょう。
頚部痛が先行してめまいが発症したのであればCTだけでなくMRIをとりましょう。
めまいを帰宅させる前に必ず歩行できるか確認する
患者さんの「めまい」が僕らの考えるめまいと一致していて、いざ中枢性か末梢性かを診断していく、となった時に必ず神経学的所見をとると思います。
そして、研修医の先生が神経診察をしてくれて「神経所見はありませんでした。末梢性めまいだと思います」と言ってくれる事が多いのですが
ここに3つ目のコツ(というか落とし穴)があります
めまいの患者さんは動くとめまいが悪化するので、ほぼ救急車で来院されて、ストレッチャーに寝かされている事がほとんどだと思います。
患者さんが寝たままではとれない神経学的所見がめまい診療では最も重要です。
それは“体幹失調”です。
中枢性めまいの原因となるのは主に小脳・脳幹の病変です。ですので小脳失調をみるために指鼻試験や膝踵試験はすると思います。
しかし、これは四肢の失調はみれますが、体幹失調を確認するためには立位・歩行ができるかをみなければいけません。
小脳・脳幹病変の部位によっては四肢の失調はあまり目立たずに体幹失調が出る、ということがありえます。
なので頭部CTは問題無し、(仰臥位でとった)神経学的所見も問題無し、でも小脳梗塞を見逃すことがあります。
歩けないなら帰れないから、どっちにしろ入院なのでは?と思うかもしれませんが、めまいの対症療法(プリンペラン投与など)をすると、車いすに座れるくらいは動ける患者さんもいます。
なので、帰宅指示を出してその後の様子をみなければ、看護師さんと家族が頑張ってなんとか帰宅できてしまうこともあります。
こうならないために、必ず帰宅させる前には立位・歩行の様子を観察しましょう。そして、失調歩行があるのであれば迷わず頭部MRIをとりましょう。
そもそも立位にもなれないくらい症状が強いのであれば末梢性めまいであっても入院が妥当ですし、入院前に頭部MRIを施行しておく方が無難です。
まとめ
危険なめまいを鑑別するための3つのコツをお話ししました。
- 患者さんが「めまい」と言ったら、“僕らの思うめまい”と同じか確認しよう!眼前暗黒感や倦怠感のこともある。
- 中枢性めまいが鑑別に挙がったら頚部痛が無いか確認しよう!椎骨動脈解離のことあり。
- 帰宅させる前に必ず歩行できるか観察しよう!小脳梗塞で体幹失調が唯一の神経学的異常のことあり。