救急外来での引き継ぎに潜む3つのリスク

研修医・若手医師

救急外来での勤務交代時の症例の引き継ぎは日常的に行われている事かと思います。

何気なく行われているその引き継ぎには実はリスクが潜んでいるんです。

僕のこれまでの経験を振り返った時に、不適切な診断やインシデントやアクシデントが起こるケースは引き継ぎの時間帯に絡むものが少なくありません。

その引き継ぎにまつわる危険について言語化をしてみようと思い記事を書きました。

僕が考える救急外来での引き継ぎに潜むリスクは以下の3つです。

  1. 引き継ぎする側の疲労
  2. ダブルチェックの罠と綱引き理論
  3. 患者さんが引き継ぎの時間に来院する理由

救急外来での経験が少ない先生たちにとってきっと参考になる内容なのでお付き合いください。

目次

引き継ぎする側の疲労

「引き継ぎ」をするタイミングは日勤の終わりか当直の終わり(3交代であれば準夜の最後も)になるはずです。

いずれにせよ8時間ないしは16時間近く救急外来で診療している状態なので疲労はピークになります。

なので当然判断ミスが生じやすい状態です。

この危険を回避する方法は「無理に結論を急がずに、積極的に引き継ぎをしてもらう」という事です。

引き継ぎする相手が自分よりも上の学年だったり、気難しい先生だったりする時には「引き継ぎするのも申し訳ないし、ちょっと時間はかかるけど自分で最後まで診よう」と思いがちです。

ただし人間疲労してくると、早く結論を出したい、早く終わらせたい、と思ってしまいます。

そのような状況では、病歴・身体診察、検査所見などについても自分に都合の良い情報だけが目につくようになってしまいます。

例えば、「胸部不快感」を主訴に来院した症例がモニター上で心房細動で頻脈であった時に、この胸部不快感を「どうせAfで動悸を感じたのを胸部不快感と言っているのだろう」と捉え、ACSの可能性を早期に除外してしまう、という状態です。

よくよく心電図を見れば以前と比べてST低下があ流のですが、気づかずに引き継いだ医師が心電図変化に気づきトロポニン採血を追加したところ、トロポニンが著明に上昇していた、ということがあります。

このように自分が見たい情報だけに注目してしまう事を確証バイアスと呼びます。

引き継ぐのは申し訳ないからと無理に帰宅させようとせずに、次の勤務帯に患者さんを適切に引き継ぐ事が重要です。

では、引き継ぎを行えばそれで安心かと言えば必ずしもそうとは言えないんです。

引き継ぎは「引き継ぎに伴う危険」もはらんでいるんです。

それが次に解説するダブルチェックの罠と綱引き理論です。

ダブルチェックの罠と綱引き理論

「ダブルチェック」については何となくは知っている、という人が多いと思います。

輸血の確認の時などにやっているアレです。

ダブルチェックの理屈は、1人の人が100回に1回ミスをする作業があった場合に、それを2人で行うことでミスが10000回に1回に減らすことができる、というものです。

ただし、これは2人で確認する時にも1人の時と同じように100回に1回ミスをする(それぞれのパフォーマンスが変わらない)という前提があって成り立つ理論です。

一方で「綱引き理論」というものをご存知でしょうか?

綱引きで綱を引く人が増えれば増えるほど、一人当たりが引く力が弱くなっていく、という実験結果があるのです。

つまり関わる人数が増えれば増えるほど1人のパフォーマンスが下がっていくわけです。

皆さんは輸血のダブルチェックなどを行う時に、自分1人で確認する時と同じように確認していますか?

「どうせもう1人の人が確認してくれてるし大丈夫だろう、サインだけしとこ」なんて思ったりしてませんか?(僕は思ったことあります)

これが引き継ぎの時にも問題になってきます。

「どうせ引き継いでくれた先生がちゃんと見てくれるから、大丈夫だろう」

「最初に見てくれた先生が、大丈夫そうだって言ってたし大丈夫なんだろう」

と引き継ぐ側も引き継がれる側も、自分1人で診療している時よりも評価が甘くなってしまう事が起こり得るのです。

ダブルチェックは自分1人がミスをしたら終わりだ!という姿勢で2人で確認して初めて効果があるわけです。

特に引き継がれる側が、“自分1人で最初から診療している”という気持ちで最初から評価し直す事が重要です。

患者さんが引き継ぎの時間に来院する理由

3つ目はあくまでも個人的な感覚に過ぎないのですが、特に注意した方が良いと感じるのが「勤務交代直前にやってくるwalk-inの患者さん」です。

当直の一番最後の時間帯に歩いてくる人は、もう少し待てば昼間の一般外来が開くのにあえて救急外来に来たという事は「それなりの症状があった」と考える事ができます。

何かいつもと違う、もう少し待てない理由があったと考えて慎重に評価すべきです。

さらに歩いてきているため、一見「帰宅できそう」という先入観を持ちやすいというところもリスクです。

まとめ

救急外来の引き継ぎに潜むリスクについて3つの危険についてお話しました。

ポイントは

  • 引き継ぎ間際に来院した症例は無理に帰宅させようとせず、自分が疲労している事を理解して次の勤務帯に患者さんを適切に引き継ぐ
  • 引き継がれた側は、自分が最初から診ているという気持ちで評価し直す。
  • 微妙な時間に来院した人にはそれなりの理由(症状)があるかもしれないと、慎重に対応する。

少し乱暴かもしれませんが、勤務交代時間の少し前に来院した引き継ぎを要する症例の入院閾値は下げて良いと思っています。

以上参考になればうれしいです。