入院翌日の朝から徐々に酸素投与量が増加
夕方から見当識障害が出現し、混乱した会話がみられるようになってきた
輸血もしたし呼吸が悪いのは心不全になったのかな?せん妄も合併したのかな?
うーんそれもあるかもしれないけど、眼瞼結膜に点状出血があるよ。脂肪塞栓かもしれないね!
脂肪塞栓??
目次
脂肪塞栓症とは
主に骨折などによって、骨髄の脂肪滴が血中に流れ込み、肺、脳など各臓器の障害を引き起こす病態です。
特徴的な症状は呼吸不全、意識障害、点状出血の3つです。
長管骨や骨盤骨折などの外傷受傷後12〜72時間後に発症することが多いですが(1)、非外傷性疾患で起こることもあります。
脂肪塞栓症の原因:外傷関連と非外傷性疾患
脂肪塞栓の原因で多いのは骨折などの外傷です(2)(3)。
- 長管骨骨折(主に大腿骨)
- 骨盤骨折
- 骨髄ルートからの輸液
- 整形外科手術
- 熱傷
- 脂肪吸引
一方で急性膵炎など非外傷性の原因も頻度は低いものの報告されています(2)(3)。
- 急性膵炎
- 糖尿病
- 人工心肺
- 骨髄炎
- 脂肪製剤投与
では脂肪塞栓症を疑った時に診断の根拠となる診断基準はどのようなものがあるのかを次に解説していきます。
脂肪塞栓症の診断基準
元々はGurd’s criteriaが古典的な診断基準として有名でしたが、改定されてGurd and Wilson’s criteriaとなっています(4)。
診断基準はメジャー症状2つ、またはメジャー1つ+マイナー4つ以上となっています。
- 呼吸不全
- 意識障害
- 点状出血
- 頻脈 (>110 bpm)
- 発熱 (>38.5 ℃)
- 黄疸
- 腎病変(尿中脂肪摘、乏尿)
- 網膜病変
- Hb低下
- 新規の血小板減少
- 血沈上昇
- 血中脂肪滴
ただし、ここで難しいのはこれらの症状のうちいくつかは、外傷の症状として出現し得ることです。
例えば意識障害は頭部外傷でも出現します。
びまん性軸索損傷(DAI)は頭部CTでわからないこともあり、鑑別にはMRIが必要となる場合があります。
頭部MRIではSWI(susceptibility-weighted imaging)という撮影方法でびまん性の点状出血を検出することが診断に有用との報告が出てきています(5)。
他にもHb低下、血小板減少、発熱など、一つ一つの症状だけであれば「外傷後の変化」として処理されてしまう可能性があります。
まずはメジャー症状の3兆に注目して、怪しければ他の項目も確認していくことで診断できる可能性が上がります。
脂肪塞栓症の診断の意義:肺塞栓症の除外
脂肪塞栓症は実は診断されていない症例も少なくないと推測されます。
なぜなら基本的に対症療法しかなく、自然に軽快する例がほとんどだからです。
なので、実は脂肪塞栓症を確定診断することは直接的な予後改善にはつながらないかもしれません。
むしろ重要なことは鑑別診断である肺塞栓症の除外です。
下肢の骨折などの外傷後は肺塞栓症のリスクが上がります。
その状況で低酸素血症があれば肺塞栓症の除外は必須です。
肺塞栓症であれば抗凝固療法を開始したり、治療方針が大きく変わるからです。
またやっかいな事に、極めて稀なはずですが脂肪塞栓症と肺塞栓症が合併した症例報告もあります(6)。
なので臨床像から脂肪塞栓だ!と思っても肺塞栓症の除外はしておく、という姿勢が重要です。
まとめ
脂肪塞栓症について解説しました。
診断基準はあるものの、「外傷後の変化」で流されてしまう場合もあるのでまず疑うことが重要です。
ポイントは受傷3日以内の呼吸と意識の悪化です。
脂肪塞栓症の診断以上に重要なのは肺塞栓症の除外ということを忘れないでください。
【参考文献】
- Mellor A, Soni N. Fat embolism. Anaesthesia 2001; 56: 145–54.
- Stein PD, Yaekoub AY, Matta F, Kleerekoper M. Fat embolism syndrome. Am J Med Sci. 2008;336(6):472–477. doi:10.1097/MAJ.0b013e318172f5d2
- Akhtar S. Fat embolism. Anesthesiol Clin. 2009;27(3):. doi:10.1016/j.anclin.2009.07.018
- Kwiatt ME, Seamon MJ. Fat embolism syndrome. Int J Crit Illn Inj Sci. 2013;3(1):64–68. doi:10.4103/2229-5151.109426
- Kuo KH, Pan YJ, Lai YJ, Cheung WK, Chang FC, Jarosz J. Dynamic MR imaging patterns of cerebral fat embolism: a systematic review with illustrative cases. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35(6):1052–1057. doi:10.3174/ajnr.A3605
- Ebina M, Inoue A, Atsumi T, Ariyoshi K. Concomitant fat embolism syndrome and pulmonary embolism in a patient with a femoral shaft fracture. Acute Med Surg. 2015;3(2):135–138. Published 2015 Jul 3. doi:10.1002/ams2.127