論文博士とは?取得の方法と必要な3つの条件を解説

研修医・若手医師

「大学院に4年間行くのはちょっとハードルが高いな」

「でも英語の原著論文は書いた事がある(もしくは今後書くつもりがある)」

という方は“論文博士”という選択肢があります。

ここでは

・論文博士と課程博士の違い
・論文博士の取得に必要な条件 

について解説していきます。

筆者は臨床医を続けながら論文博士を取得しました  

目次

論文博士と課程博士の違い

・課程博士
大学院に4年間在籍し、その間に論文作成して取得する博士号

・論文博士
論文の提出のみで取得する博士号

一番大きな違いは、大学院に在籍するかどうかです。

ここをメリットと捉えるか、デメリットと捉えるかは人によります。

大学院に在籍するメリットは、研究手法や統計解析などの講義があり、研究を実施するための指導を受けやすい、ことです

大学院に在籍するデメリットは、時間とお金がかかる、ことです。

お金については大学院生でも医師であればアルバイトをしたりしてある程度収入を得ることは可能です。

ただし4年間という時間については人によっては長いと考えるかもしれません。

では得られる資格などに違いはあるのでしょうか?

課程博士と論文博士で得られる資格はいずれも「医学博士」であり、これ自体の扱いに違いはありません。

違いは最終学歴が変わることです。

課程博士は大学院を卒業しているので、最終学歴が「〇〇大学大学院卒」となります。

じゃあ大学院卒と大学卒とで違いがあるかというと、肩書き以上の明確な違いは無いと思います。

自分のこだわり次第でしょうか。

論文博士と課程博士の違いをまとめると

  • 医学博士取得の過程で大学院に在籍するかどうか
  • 最終学歴が大学院卒になるかならないか

に集約されます。

論文博士取得のための3つの条件

論文博士を取得するための条件をざっくりまとめると

  • 査読のある英文誌に原著論文が掲載されている(もしくは掲載予定)
  • 大学の課す英語筆記試験に合格
  • 研究歴を満たしている

の3つになります。

ここから一つずつ解説していきます。

査読のある英文誌に原著論文が掲載されている(もしくは掲載予定)

まずは査読のある英文誌に原著論文を掲載されることが必須条件の一つになります。

が、これまでに一度でも論文を執筆したことがある、もしくは経験のある指導医から論文執筆の指導を受けることができる、という人であれば挑戦してみる価値はあると思います。

ただし注意が必要なこととして、論文博士は基本的に課程博士(大学院4年を経た博士)と同等の研究力がある、という前提で認められるものなので、大学によっては求められる論文の質がかなり高い場合があります。

多くの大学では「peer-reviewのある雑誌に筆頭著者として論文が公表されていること」を要件としています。

明言されていない場合もありますが、原則英文誌と思って良いでしょう。

ちなみに大阪大学の論文博士の要項には

主論文は peer-review journal に筆頭著者として公表した論文であること。
和文の場合は単名、欧文の場合は共著も認めますが筆頭者が単名であることが原則です。

と和文も可能であることを匂わす記述がありますが、基本英文と思って取り組んだ方が良いと思います。

査読のある英文誌以上の条件については言及が無いことが多いのですが、極端にハードルが高い大学もあります

奈良県立医科大学の論文博士の要件が2016年に改定されたのですが、かなり厳しい条件になりました

・申請論文(筆頭著者に限る)のインパクトファクター(論文掲載年の公表済直近 5 年平均)が 15 点以上
・申請論文以外に、筆頭著者としての掲載論文(インパクトファクターが 1 点以上)が 2 編以上。
・本学の大学院入学試験に準じて行われる学力試験に合格。

インパクトファクター15点以上となると循環器領域ではCirculationでギリギリセーフというレベルです。救急集中治療領域では15点以上は無いかもしれません(AJRCCMでも届かないか・・・)。

しかもそれ以外にも1点以上の論文が2つ以上ということで、これは相当な優秀な研究者でないとクリアできないのではないでしょうか。

おそらくこれだけの結果が出ているような人であれば他の大学なら余裕で論文博士が取れると思います。

なぜこんな、厳しい条件にしているかというと、過去に論文博士を廃止することも検討されているという流れがあった、ということが関連していると思われます。

詳しくは、論文博士は廃止されるのか?論文博士をとった医師が考察、の記事で解説しているので参考にしてください。

検討している大学の募集要項はもちろん、実際に論文博士を授与された論文もネット上に掲載されていることが多いので、確認しておくと参考になると思います。

インパクトファクターは問わず、研究の手法が妥当で、口頭試問を経て認定されれば論文博士を取得できるという大学も普通にあります。

大学の課す英語筆記試験に合格

多くの大学では大学院の入学試験と同じ日程、同じ問題で試験を行っていると思います。

なので過去問や傾向などは大学院を受験した先輩たちから情報を得るのが良いでしょう。

ちなみに僕が受けた大学の英語試験はオーソドックスな長文読解がメインの試験で、辞書持ち込み可(電子辞書不可)でした。

普段から英語論文を読んだり(書いたり)している人であればあえて対策は不要かなと感じましたが、あえて勉強するならばTOEIC、TOEFLの長文問題などをやってみるくらいでしょうか。

ただ論文博士を取得するためには当然論文執筆することになる(もしくはすでにしている)わけですが、自分が研究しようとしている分野の先行研究の論文を読む作業は必須ですので、それをやるのが一石二鳥な気がします。

研究歴の要件を満たしている

一般的に臨床領域では研究歴6年となっている事がほとんどです(基礎系は5年)

ここでいう「研究歴」て何だろう?という感じですが、

基本的にはある程度権威のある病院での臨床経験(臨床しながら研究もしているという解釈)のことです。

ある程度権威のある病院の定義も大学によっては細かく規定されている場合があります。

よくあるのは国公立病院、赤十字病院、臨床研修指定病院といったものですが、臨床研修指定病院まで含めるのであれば、多くの医師が該当するのではないでしょうか。

また学位を受けようとする大学に何らかの身分で所属(常勤医、研究生など)していたことも求められる事が多いようです。

大学と全然関係ない人に試験と論文だけで学位は出せないよ、というのはまあ理解できます。

そして「6年て初期研修は含むの?」という疑問もあるかと思いますが、

京都大学大学院医学研究科の論文博士の申請手続には、研究歴に関して

臨床医としての経験を有する者は、医師免許(歯科医師免許)取得後の2年間は研究歴年数には含められません

とありますので、初期研修の2年間は含まずに6年ということなので、最短でも卒後9年目以上の医師が対象になると考えてよいでしょう。

つまり、後期研修終了後に大学院へ4年通って課程博士を取得するのとほぼ同じような卒業年数になります。

繰り返しになりますが論文博士はそもそも課程博士と同等の研究力があることを認める制度なので、当然かもしれません。

 研究歴の年数・定義なども大学によって異なる場合があります

まとめ

論文博士と課程博士の違い、そして論文博士の取得に必要な条件について解説しました。

  • 査読のある英文誌に原著論文が掲載される
  • 英語の試験に合格する
  • 研究歴を満たす(臨床6年以上)

大学院に4年通うのはちょっとハードルが高いけど、論文作成はできそう(これから取り組むつもりである)という方は検討の余地ありです。

細かい基準については大学にもよるので、各大学の論文博士申請についての要件を確認してみてください。

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2020年2月14日