ICUに患者さんが入ったけれど、うちの病院には集中治療医がいないからどうしたらいいんだろう。
ICUでは多職種で回診をしたほうがいいみたいだけどどうやっていいかわからない。
by systemでやるのがいいって聞いたけど実際どうやったらいいの?
そんな方のために、集中治療医がいなくてもできるICU回診のやり方を集中治療専門医が解説していきます。
by systemの各論では、参考になるガイドラインへのリンクも紹介しているので、よければ参考にしてください。
目次
ICU回診のはじめ方(総論):by systemでディスカッション、記録をしていこう
by systemとは、臓器系統別に問題点を整理していきディスカッション、カルテ記載を行うことです。
普段のカルテでは「#肺炎#糖尿病」などのような、プロブレムリストにもとづいてディスカッション、カルテ記載がされているはずです。
いっぽうby systemでは呼吸、循環、腎臓、など臓器別に整理していき、全ての臓器(system)について評価していきます。
なぜそんな面倒なことをするのでしょうか?
それは、ICUに入る患者さんはほぼ確実に複数の臓器に問題を抱えているからです。
例えば敗血症性ショックの患者さんがICU入室したとします。
最初はショックという循環の問題だけかもしれませんが、輸液をしていくうちに呼吸状態が悪化したり、尿が出ずに腎機能が悪化していったり、経口摂取ができずに栄養の問題がでてきたり・・
各臓器の問題点を入室時から見える化していくことで、状態の変化に早めに介入できるのです。
そもそも“回診”とはいっていますが、テンプレートに従って評価していくやり方は対象患者さんが1人でも10人でもやることは同じです。
全ての症例で同じテンプレートに従ってやっていくことが重要なのです。
それを繰り返していく事によって、集中治療の診療能力が目に見えて向上するようになってきます。
集中治療専門医がいなくても、少ない人数でも大丈夫。多職種を巻き込もう!
ICU回診というと集中治療医がたくさんいて、各科の専門医がいて・・・というイメージかもしれませんが、少人数でも可能です。
特に医師が少ない病院では、医師がたくさん集まって1時間も2時間も回診なんてできません。
医者は後期研修医と初期研修医が1人ずつくらいいれば大丈夫です。
ただし多職種(看護師さん、薬剤師さん、栄養士さん、臨床工学技士さん、PTさん、STさん)にも参加してもらいましょう。
もしもリアルタイムで参加できない職種がいるのであれば、回診後に該当部分について相談でも構いません。
みなさんが思っている以上に多職種の方々は集中治療に関わりたいと思ってくれています。
ICU回診の実際:by system各論
ここらは実際のby systemで各項目で議論すべき内容について解説していきます。
症例によっては特に議論が必要無い項目もあるかもしれませんが、必ず入室時には一度は全ての臓器について検討する習慣をつけましょう。
最後に「やることリスト(To Doリスト)」を確認しますが、最後までいってから確認すると最初のほうの議論を忘れてしまいがちなので、各臓器の議論が終了するごとにTo Doを書き出しておきましょう。
Neurology(神経)
PAD(Pain、Agitation、Delirium)管理
要は鎮静・鎮痛・せん妄の管理についてです。
まずは鎮痛が適切に行われているかが最も重要です。鎮痛が不十分だと、不要な鎮静やせん妄の原因となりえます。
痛みやせん妄の程度などは看護師さんが一番良く把握しているので積極的に情報を共有しましょう。
意識障害の原因を追求
ICU患者さんでは軽度なものを含めると意識障害はよくみられます。ですが「重症患者だから」、「敗血症だから」と原因をあいまいにしておくことは危険です。
意識障害の鑑別で常に考えておきたいのは、脳卒中、髄膜炎、てんかんの可能性です。
ICU入室患者さんは凝固障害や心房細動などを合併していることは珍しくなく、入室後に脳卒中を発症することはしばしば経験します。頭部CTの適応は無いか、日々議論しましょう。
また、髄膜炎についても敗血症や頭部外傷後(頭蓋底骨折あり)の症例に合併することがあります。もし腰椎穿刺ができない理由(凝固異常、ショックなど)があれば髄膜炎量の抗菌薬を投与することも検討する必要があります。
ICU症例での痙攣を伴わないてんかん発作(NCSE)は近年注目されています。原因のわからない意識障害には脳波も検討すべきです。
大前提として、意識障害の有無を評価するためには鎮静を1日1回中止して評価するか、指示が入る程度の浅い鎮静で管理する必要があります。
ICU-acquired weakness(ICUAW)の評価・予防
ICU-acquired weakness(ICUAW)は重症患者さんにおこる全身性の筋力低下です。
敗血症やステロイド、筋弛緩薬の使用などがリスクとして知られています。
これらの予防のために理学療法は重要です。是非PTさんとの連携をしていきましょう。
Respiratory(呼吸)
抜管可能かどうか毎日議論
人工呼吸器管理中であれば毎日抜管できないかを議論します。病態が落ち着いて来たのであれば、SBT(自発呼吸トライアル)を日々行い、抜管を常に意識しましょう。
人工呼吸器の設定は臨床工学技士さんにも議論に参加してもらいましょう。
低酸素血症の原因を追求
なんとなく理由が議論されずに酸素を吸っている、という状況が時々あります。
酸素を吸っている=低酸素血症があるのであれば原因を明らかにしておく必要があります。
例えば入室前後の大量輸液による肺水腫・胸水貯留が原因と考えているのか、無気肺によるものと考えているのか、胸部外傷による胸郭の動きの問題なのか、など原因によって対応が異なります。
原因によっては他のsystem(水分量の問題であればin-outなど)での議論にも影響があるので重要です。
Circulation/Cardiovascular(循環・心血管)
ショックの原因について
敗血症性ショックや、出血性ショックなど入室時点で診断がついていることが多いかとは思います。
ですが、なかなかショックから離脱できない、いったん改善したが再度ショックになった、などの場合は特に原因について議論すべきです。
ショックであればvolumeが適正かについてもここで議論していきます。
血圧の目標値
例えば頭蓋内病変などで血圧が高い場合、目標とする血圧を共有しておく必要があります。脳出血、脳梗塞、SAH、頭部外傷など、病態によって目標とする血圧は異なります。
Renal/Lytes/In-Out(腎・電解質)
腎機能障害の原因について
腎前性・腎性・腎後性のいずれに該当するかを確認します。
忘れがちなのは腎後性で、膀胱留置カテーテルが物理的に閉塞して尿閉を起こしていることなども時々経験します。
volume評価のためのエコーを行うことが多いと思いますが、そのときに腎臓・膀胱で閉塞機転が無いかの確認もルーチンで行うと良いです。
電解質異常への介入(特にP・Mg・Ca)
NaやKはもちろんですが、ICUでは特にP、Mg、Caなど一般病棟ではあまり介入しない電解質のモニタリングが重要となります。
低P血症はre-feeding症候群と関連があり、ICU入室患者さんの栄養を開始するにあたってはモニタリングが必須です。
また外傷の大量輸血後などに低Ca血症を発症しやすく、ICUでは比較的よくみる電解質異常です。
in-out balance
水分のin-outの方針について確認します。
時々やってしまうのはマイナスバランスを目指しているのに、不要な維持輸液が1日1−2本漫然と投与されてしまうことです。
利尿薬を使う前に不要な輸液(抗菌薬の溶媒など)を減らせないか検討しましょう。
GI-Liver(消化管・肝胆膵)
肝酵素上昇の原因
ICUの患者さんの肝酵素上昇はよく見られる検査異常ですが、軽度であっても原因について鑑別を挙げておくことが重要です。
薬剤性が疑われるのであれば候補は何か?数値としてどの程度まで許容できるか、などを議論しておきましょう。
そうすれば翌日にさらに上昇してきたときの対応に慌てなくて済みます。
下痢の原因・排便コントロール
ICU患者さんの下痢の原因の多くは経腸栄養剤によるものですが、CD腸炎など早期介入が重要な病態もあります。
CDトキシンの提出のタイミングや結果の解釈について議論しましょう。
また、排便コントロールについても日々確認が必要です。
ICU患者さんは便秘のリスクが高く、放置してしまうと糞便性イレウスの原因にもなりかねません。
3日に1回は排便があるようにコントロ−ルしましょう。
これはあらかじめ看護師さんとも共有しておくべき事項です。
Nutrition/Glucose(栄養・血糖)
栄養投与経路に腸管は使えるか
腸管が使えるのであれば経腸栄養が原則です。
入室時に直後には経腸栄養開始できていない事も多いですが、可能な限り早期に経腸栄養が開始できないかを毎日議論しましょう。
目標カロリー、目標蛋白量の議論
目標カロリー、目標蛋白量の設定を確認します。re-feedingのリスクは無いか、病態や合併症にもとづいた蛋白量の設定は妥当かなど確認していきます。
栄養士さんに積極的に相談していきましょう。
血糖コントロールの方法
血糖コントロールの方法、目標値を確認していきます。
漫然とインスリンスケールを続けるのではなく、必要ならばインスリン定期打ちを行いましょう。
Endocrinology(内分泌)
ステロイド投与の理由・投与期間など
敗血症性ショック、間質性肺炎に対するパルス療法などステロイドの投与を行う症例について、投与量・投与期間の議論を行います。
甲状腺や副腎機能の精査について
内分泌疾患のクリーゼが疑われる、という症例は多くはありませんが、必要に応じて内分泌的検査の適応を議論していきます。
Hematology/Coagulation(血液・凝固)
貧血の原因
貧血もよくみられる問題です。まず除外すべきは急性の出血です。
消化管出血が代表的ですが、女性であれば婦人科疾患も考慮が必要です。また大腿や腸腰筋などの筋肉内血腫も時々経験します。診察や必要に応じてCTも検討しましょう。
輸血閾値について
なんとなくHbか低いから輸血、は厳禁です。輸血は量が増えればそれだけ合併症が増えます。不要な輸血を避けるために輸血の閾値の議論は不可欠です。
一般的にはICU症例でのHbの目標値は7-9ですが、病態ごとに議論は必要です。
急性の出血が現在進行形で存在している場合はHb値だけで判断することはできません。
血小板減少・凝固障害の原因
敗血症など凝固異常をきたす病態は少なくありません。
基本は原疾患の治療になりますが、薬剤性血小板減少やHITなど介入が必要な病態は常に鑑別に入れましょう。
Infection/Inflammation(感染・炎症)
感染源の議論
敗血症など感染症で入室した症例では感染源についての議論が欠かせません。
入室時の診断と変わることも珍しくないので、培養結果を毎日チェックし、想定している感染源と矛盾ないかを議論しましょう。
感染源が変われば後述する抗菌薬のレジメ、投与期間などが大きく変わるからです。
抗菌薬投与レジメ 投与期間
上記の感染源の議論を踏まえて抗菌薬のレジメ・投与期間の妥当性を議論します。
また、入室時に抗菌薬を開始したものの、感染症の可能性が低いという判断になれば、抗菌薬を早期に終了することも議論する必要があります。
またここで腎機能が変化していれば抗菌薬の投与量の見直しも行います。
ここは薬剤師さんにチェックをお願いするといいでしょう。
Skin/Tube(皮膚・挿入物)
皮膚トラブル(褥瘡など)の確認
褥瘡や下痢などによる皮膚のかぶれなど早期に発見して介入していきましょう。
挿入物は毎日抜けないかを考える
CVC、Aライン、膀胱留置カテーテルなど、多くの挿入物があると思います。
挿入物は全て感染源ですので、不要になったらすぐに抜去しましょう。
特に膀胱留置カテーテルは、重症だから、症状安静だから、という理由で長期留置になりがちです。
“循環が不安定なので尿量をモニタリングする”など明確な目的が無い場合は早期に抜去しましょう。
Prophylaxis(予防)
DVT予防
ICU症例は基本的にDVTのハイリスクです。
適切な予防方法について必ず検討しましょう。
潰瘍予防
潰瘍予防については、適応に該当するかを議論して、適切に実施していく必要があります。
PPIを用いるかH2ブロッカーを用いるかは結論は出ていません。
いずれにせよ腸管が使えるのであれば内服のほうが低コストです。
To Doリスト
最後にTo Doリストを列挙します。
必ず声に出してチームのメンバーと共有することで抜けが無くなります。
リストを書き出したら、「今すぐやるべきこと」、と「今日中にやるべきこと」に分類していきます。これは2人以上の症例を担当している時には特に重要です。
そして夕方に当直医に申し送る前に、今日のTo Doリストが全て実行されているかを確認します。
まとめ
by systemによるICU回診のポイントについて解説しました。
各臓器ごとに議論すべき項目は今回取り上げたものだけでなく、症例によって変わってきます。
大事なのは全ての臓器の問題点を見える化する(構造化する)ことです。
それによって、どれとどれがトレードオフの関係にあるのか(例えば呼吸を優先してマイナスバランスにすると腎機能が悪化する、今はどちらが優先されるかを考える、など)などが見えてきます。
また全ての臓器の問題点をカルテに記載することによって、引き継がれた人がスムーズに診療を継続することができます。
ICU患者さんの回診、カルテ記載にこの記事が参考になれば幸いです。