心房細動のレートコントロール|救急外来での薬の使い方

研修医・若手医師

救急外来に動悸を訴える患者さんが受診して、頻脈性心房細動だとわかりました。

心房細動のレートコントロールって何を使ったらいいんだっけ?

目標のHRは?

そもそもレートコントロールかリズムコントロールはどっちがいいのかな?

などの疑問についてESC心房細動ガイドライン2016を元ネタに解説していきます。

詳しく読みたいという方はリンクからガイドラインを参照してください。

ここでは時間が無い今すぐ要点が知りたい、という方に向けて解説をしていきます。

目次

レートコントロールかリズムコントロールか

まず救急外来での原則として、頻脈性不整脈によって循環動態が破綻している場合はカルディオバージョンによるリズムコントロールが必要です。

ここからはあくまでも循環動態が落ち着いている状態の話です。

2008年のNEJMに掲載された「AF-CHF trial」では、

心房細動を合併した慢性心不全を有する患者において、リズムコントロールとレートコントロールで心血管死に有意差はありませんでした

これはあくまでも慢性心不全の話で、急性心不全+心房細動に関する質の高い研究はありませんが、

急性期でもまずはレートコントロールを試みることが一般的です。

救急外来での目標の心拍数は?

2010年にNEJMに掲載された「RACE-II trial」ですが、

緩いコントロール(安静時<110bpm)は 厳格なコントロール(安静時<80)と比較 して、心血管イベント発生率は差がなく、心拍数の目標達成はより容易でした。

ただしこの研究も慢性期かつ心不全患者対象ではない研究なので、急性期にそのまま当てはめれるかは不明です。

ESC心房細動ガイドライン2016では

まずは安静時HR <110bpm を達成し、以降は症状と血行動態をみながら個別に最適化するのが妥当

としています。

LVEFを目安に薬剤を使い分ける

ESCガイドライン2016で示されている、心房細動の急性期レートコントロールで使用する薬剤のアルゴリズムです。

LVEF40%を目安に薬を使い分けるということになります。

要はHFrEFかHFpEFかで分けるということですね。

LVEF≧40であれば、Caブロッカーが使いやすい

ガイドラインではβブロッカーの静注も選択肢としてありますが、日本では静注製剤としてはインデラル(プロプラノロール)になります。

もちろんインデラルもダメではないのですが、Caブロッカー、特にジルチアゼム(ヘルベッサー)が個人的には使いやすいと思います。

教科書的なジルチアゼムの投与量は0.25mg/kgです。

0.25mg/kgと言われてもピンとこないかもしれませんが、大丈夫です。救急外来での覚えやすい使い方を説明します。

おすすめの投与方法は

1V(50mg)を生食20mlに溶かして、体重10kgごとに1ml投与です。

体重50kgの人であれば上記の溶液を5mlですね。

計算すれば単純な話ですが、50mgを20mlに溶かせば2.5mg/mlの濃度になります。

0.25mg/kgなので2.5mg/10kgとなるので、体重10kgごとに1ml投与する、ということになります。

なので50mgのバイアルを20mlの生食に溶かす、というところがポイントです。

僕が実際に使うときは、高齢者に投与するときは3mlをまず投与して、反応を見ながら2mlずつ追加するという方法をよく使っています。

推奨量よりは少ないですが、足りなければ追加すればいいだけなので。

LVEF<40であればアミオダロンを考慮

アミオダロンは陰性変力作用が少なく、低左心機能の心房細動でレートコントロールに使用します。

ただし日本では保険適応では無いこと、基本的には中心静脈カテーテルからの投与が推奨されている点には注意が必要です。

初回投与量は

125mg(3ml)のアンプルから2.5mlを吸って、100mlの5%ブドウ糖へ混注し、600ml/h(10分間)で投与

です。

最小限のβブロッカーという選択肢も提示されていますが、循環器内科医以外の判断で安易に投与しない方が良いかと思います。

アンカロンを使うにせよ、βブロッカーを使うにせよ、心機能が悪いのであれば循環器内科医に積極的にコンサルトする方が安全かと思います。

ランジオロール(オノアクト)は?

ランジオロール(オノアクト)も低左心機能の心房細動に対して使いやすい薬です。

ですが持続投与が必要なので救急外来では基本的には使わない薬です。

急性心不全の症例などで入院後の管理も見越して使用するという場合は使用して良いかもしれません。

まとめ

心房細動のレートコントロールについて救急外来での対応について解説していきました。

僕のおすすめはジルチアゼムを少量ずつ静注です。

LVEFが低い人のときは注意が必要ですので、そんなときは循環器内科の先生に躊躇せずに相談していきましょう!

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