ACNESとは?腹痛の鑑別で意外と知られていない前皮神経絞扼症候群

研修医・若手医師
34才女性 妊娠30週
来院4時間前からの右下腹部痛を主訴に救急外来を受診。
発熱無し。嘔気無し。食思不振無し。
McBurney点よりもやや内側に限局した圧痛あり

妊娠中の右下腹部痛なんて・・・虫垂炎かもしれないし、切迫早産??CTとか簡単にはできないしどうすれば・・・

少し落ち着いてみよう。確かに妊婦さんの腹痛は簡単じゃないよね。でもこの人の腹痛の特徴からACNESかもしれないよ。

ACNES??

目次

ACNESとは

ACNESとはAnterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome(前皮神経絞扼症候群)のことです。

腹壁の感覚神経である前皮神経が、腹壁へ出るところで絞扼されることで腹痛の原因となりうる疾患です。

「神経が絞扼する」なんて聞くと怖そうに聞こえますが、腹壁の感覚神経なので、痛みが出る以外にはこれと言って問題となることはありません。

なので比較的稀な疾患と言われていますが、診断されていないだけの可能性も十分あります。

ACNESを見逃したから問題になる、ということはあまりないかもしれませんが、冒頭の症例のように他の鑑別も挙がっているときにこの病態を知っていると、不要な検査が減らせるかもしれません。

ACNESの特徴を簡単にまとめると以下のようになります(1)

ACNESの特徴
  • 女性に多い
  • 妊娠や外科手術に関連する場合あり
  • 右腹部〜右下腹部が多い(左もありうる)
  • カーネット兆候が陽性

妊娠が関連する場合があるようですが、子宮が大きくなって腹壁が拡張することで神経が圧迫されるのかもしれません。

カーネット兆候って何?となった方へ、ここから説明していきます。

ACNESの診察のポイント:カーネット兆候

ACNESの診断に限らず、腹痛の原因が腹壁の痛みなのか腹腔内臓器に由来する(虫垂炎など)のかを見分ける診察法です(2)


カーネット兆候の方法
  • 仰臥位で両腕を胸にクロスさせてもらう。
  • 一番強い圧痛点に検者の手を置いたまま患者さんの頭部を挙上させる(腹壁の筋肉を緊張させる)
カーネット兆候の判定
  • 圧痛減弱→陰性:腹腔内臓器の疼痛を示唆
  • 圧痛不変→陽性:腹壁の疼痛を示唆
  • 圧痛増強→強陽性:腹壁の疼痛を強く示唆

頭を持ち上げた時点で痛みが悪化する場合も陽性ととって良いという意見もあります。

ACNESの治療:トリガーポイント注射

トリガーポイント注射が第1選択になります。

圧痛の最強点に1%リドカイン 10mlを皮下注します。

効果がある場合は10-15分で疼痛は改善するようですが、初回リドカイン投与にて反応するのは86%でそのうち24%が寛解,、76%が一時的のみの改善するとの報告があります。

忙しい救急外来で実施すべきかは議論のあるところかと思いますが、診断に自信があれば試してみる価値はありそうです。

まとめ

腹壁由来の腹痛の鑑別診断、ACNESについて解説しました。

「ACNESという病態がある」と知った上で腹痛症例を診ていくと意外と少ないくないと感じるかもしれません。

腹壁由来の痛みと診断できることでCTなど不要な検査が減らせるのは嬉しいですよね。

【参考文献】

  1. Boelens OB, Scheltinga MR, Houterman S, Roumen RM. Management of anterior cutaneous nerve entrapment syndrome in a cohort of 139 patients. Ann Surg. 2011;254(6):1054–1058. doi:10.1097/SLA.0b013e31822d78b8
  2. Takada T, Ikusaka M, Ohira Y, Noda K, Tsukamoto T. Diagnostic usefulness of Carnett’s test in psychogenic abdominal pain. Intern Med. 2011;50(3):213–217. doi:10.2169/internalmedicine.50.4179