アナフィラキシー治療のエビデンス:ガイドラインでの各薬剤の位置づけ

研修医・若手医師

アナフィラキシーは救急外来だけでなく、病棟や手術室など病院の至るところで経験します。

アドレナリンて症状が軽くても打っていいのかな?

ステロイドやH1ブロッカー、H2ブロッカーも点滴したほうがいいの?

という疑問を解決するために、救急科専門医がガイドラインの記載や根拠となる論文も紹介しつつ解説していきます。

目次

アナフィラキシーの診断基準

アナフィラキシーの診断基準の確認です。

  1. 皮膚症状or粘膜症状に加えて呼吸症状or循環器症状
  2. アレルゲンになりうるものへの暴露後に以下のうち2つの症状を示すもの(数分~数時間以内)皮膚・粘膜、呼吸、循環、消化器
  3. 既知のアレルゲン暴露後の急速な血圧低下(数分~数時間後)

これは日本アレルギー学会が出しているものですが、元となる文献は海外での研究であり、海外のガイドラインともほぼ同じものです。

なんか覚えにくい!という人はS +ABCDの頭文字からはじまる単語で覚える方法も有効です。

  • S:Skin(皮膚)
  • A:Airway(喉頭浮腫)
  • B:Breathing(喘息、呼吸器症状)
  • C:Circulation(血圧低下、ショック)
  • D:Diarrhea(下痢、消化器症状)

皮膚症状が無い場合に疑うのが非常に難しくなりますが、抗菌薬投与後の血圧低下などはアナフィラキシーを疑うべき症状です。

アナフィラキシーの薬物治療のエビデンス

アドレナリン(エピネフリン)はいつ投与すべきか?

アドレナリンの投与量、投与経路ですが。

第1選択は筋注、投与量は0.01mg/kg 成人で最大0.5mgです。

アドレナリンはいつ投与すべきか?の答えは

アナフィラキシーを認識した時、または強く疑った時です

これはアメリカ、ヨーロッパのガイドラインで共通している基準です。しかし日本アレルギー学会だけが異なる見解です。

日本アレルギー学会のアドレナリン投与の適応は、

グレード3(重症)の症状がある時、または過去に重篤な症状を起こしたり、症状が急速に進行する場合はグレード2(中等症)でも投与

となっています。

ちなみにグレード3(重症)の症状とは、血圧低下、不整脈、心停止、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼ、我慢できない腹痛、などです。

日本のガイドラインでは軽症では投与しない、という見解のようです。

これの妥当性についてはとても難しい問題で、アナフィラキシーに対するアドレナリン投与について検証した質の高い研究(RCTなど)は存在しません(倫理的に実行不可能です)。

死亡例や、心停止症例でアドレナリン投与が少なかった、遅れいていたなどの観察研究の結果が根拠となっています。

しかし、アナフィラキシーは軽症に見えてあっというまに進行して心停止になる例もあります。

個人的には海外のガイドラインに従って、アナフィラキシーを強く疑う状況であれば全例アドレナリン投与が妥当と思います。

また、1回目のアドレナリン筋注でも反応が乏しい時には5-15分おきに追加投与をすることも重要です。

血圧が高い症例にアドレナリンを投与しても大丈夫か?

アドレナリン投与をためらう理由として、血圧上昇などアドレナリンの副作用が気になるかと思います。

高血圧を伴うアナフィラキシーに関するcase seriesを紹介します。

Anaphylactic reactions presenting with hypertension(SpringerPlus 2016

頻度が低いからなのか、たった8例の報告です。しかもそのうちアドレナリンが投与されたのは2例のみです。

著者の見解としては高血圧があってもアドレナリン投与で気道閉塞症状等が解除されれば血圧が下がるはず、とのことです。

2例しかアドレナリン投与されていないのでなんとも言えませんが、少なくとも気道症状があるのであればアドレナリンを投与せざるをえないでしょう。

ステロイド投与のエビデンス

ステロイド投与の目的は、二相性反応の予防、緩和です。

アメリカ、ヨーロッパ、日本のガイドラインで共通して、「その効果は立証されていない」という位置づけです。

これまで臨床でステロイドを用いられてきた経緯としては、観察研究で有効かもしれないという研究結果が元になっています。

やはり質の高いRCTのような研究は無いですが、2015年にpropensity score analysisを用いた研究があります。

Emergency Department Corticosteroid Use for Allergy or Anaphylaxis Is Not Associated With Decreased Relapses.(PMID:25820033)

Ann Emerg Med 2015 Oct

観察研究ではありますが、propensity score analysisという手法を用いて、ステロイド投与群と非投与群のbaselineの差を調整しています

RCTにはおよびませんが、これまでされた研究の中では一番質が高いと言えそうです。

その結果として、ステロイドは2相性反応の減少と相関が無かった、という結果でした。

もちろんステロイドを投与してはいけない、というほどの結果では無いですし、ガイドラインでもまだ否定はされていません。

現時点では、ステロイド投与を積極的に支持するエビデンスは無い、という状況を踏まえて、どうしていくかは医師個人の判断になってくるかと思います。

ちなみに僕個人はここ数年アナフィラキシーにステロイドを投与した記憶はありません。

抗ヒスタミン薬の適応は?H2ブロッカー(ガスター)は必要?

抗ヒスタミン薬投与の目的は、主に皮膚症状の改善です。

いずれのガイドラインでも、アドレナリンの補助療法としての位置付けです。

H1ブロッカー(ポララミンなど)は普段蕁麻疹でも使うことがあるのでわかるのですが、H2ブロッカーも使用する、と教科書に書いてあります。

これは少し違和感を感じる方もいるのでは無いでしょうか?

もしくは「アナフィラキシーだったら、H1とH2両方だ!」と指導医に言われるがまま投与している、という人もいるかもしれません。

このH1・H2ブロッカー投与の根拠となっている研究はおそらくこれです。

Improved outcomes in patients with acute allergic syndromes who are treated with combined H1 and H2 antagonists.(PMID:11054200 )

Ann Emerg Med.2000 Nov

91人を対象としたRCTでH1ブロッカー単剤とH1・H2ブロッカー併用を比較した研究です。

primary outcomeは2時間後の蕁麻疹の症状で、H1・H2併用群が有意に症状を改善した、という結果でした。

血圧については両群で差はありませんでした。

小規模なRCTですが、蕁麻疹の症状の改善には併用療法が有効なようです。

つまり、蕁麻疹の症状があまり目立たない症例には必ずしもH2ブロッカーは不要とも言えます。

蕁麻疹の症状を改善させるという目的であればH1・H2併用療法の妥当性がありそうです。

ちなみに僕は、蕁麻疹症状がアドレナリンだけで改善しているのであればH1ブロッカー投与のみ、もしくは抗ヒスタミン薬を投与しないという事もあります。

まとめ

アナフィラキシーの治療に関するエビデンスについて確認しました。

質の高いRCTはほとんどない領域ですが、ガイドラインや根拠となった研究について確認しておくことは有意義かと思います。

アナフィラキーを強く疑う時はアドレナリン筋注をためらわずに行う、ということが最も重要です。

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