大動脈解離は救急外来で絶対に見逃したくない疾患の一つです。
突然の胸背部痛!痛みが移動する!冷や汗ダラダラで救急車で搬送されて血圧左右差もあり!レントゲンとったら縦隔拡大あり!
なんて症例を何例か経験していると、ついつい
「大動脈解離は何回か診たし、さすがにあれだけ痛がる病気を見逃すことは無いかな」なんて思うかもしれません。
ですが、実は大動脈解離は非典型例が多い疾患なんです。
そんな大動脈解離をを見逃さないためのDダイマーの使い方を解説していきます。
大動脈解離の診断に自信が無い人はもちろん、自信がある!と思っている人にも今一度読んでもらう価値がある記事です。
目次
大動脈解離は非典型例が多い
up to dateによると
- 「胸部レントゲンで縦隔拡大」
- 「移動する胸痛」
- 「血圧の左右差」
これら3つとも無い症例が7%も存在するんです。
そしてさらに恐ろしい事実として痛みが全く無い大動脈解離も存在しているのです。
こんな感じなので、ある程度経験をつんだ救急医は救急外来では“常に大動脈解離の可能性を考えて診療している”といっても過言ではありません。
「胸部圧迫感?(大動脈解離かもしれない・・・)」
「失神?(大動脈解離かもしれない・・・)」
「片麻痺?(大動脈解離かもしれない・・・)」
「足に力が入らない?(大動脈解離かもしれない・・・)」
と常に頭の片隅にあるのです。
それは今までに嫌というほど非典型例をみてきて、そして場合によっては失ってきた経験があるからです。
ADDリスクスコアとDダイマーを組み合わせる
Dダイマーが陰性であれば、大動脈解離は否定的だ!と思っている人もいるかもしれませんが、これは正しくありません。
残念ながらDダイマー単独では大動脈解離は除外できないのが事実です。
そこで、検査前確率が低い集団でDダイマーが陰性であれば否定できるはず、という仮説を検証した研究結果があります。
ADDリスクスコア
次の3つのカテゴリで、カテゴリ内の項目をひとつでも該当すれば1点とし、0−3点で評価します。
- 基礎疾患
マルファン症候群、大動脈疾患の家族歴、既知の大動脈弁疾患、既知の胸部大動脈瘤、大動脈の治療 (手術) - 症状
突然発症、激痛、裂けるような痛み - 血流障害 ・循環不全
脈拍の欠損、収縮期血圧の左右差、局所的な神経学的異常、拡張期逆流性雑音、低血圧、ショック
このADDリスク≦1点かつDダイマー<500ng/mLであれば陰性的中率99.7%という結果でした。
up to dateでは300人に1人以下の見逃しになる、となっています。
これは非常に有効な方法と言えますが、一方で完全に0%にはならない、という点にも注意すべきです。
なので、このADDスコア+Dダイマーの組み合わせを基本としつつも、診療担当医の「何かおかしい」という感覚で、造影CTを実施することも時には必要だと個人的には思います。
Dダイマーのカットオフ値の注意点
Dダイマーのカットオフ値は500ng/mL未満となっていますが、日本の病院ではμg/mLが採用されていることが多く、その場合は0.5未満となります。
ところが、画面で赤く表示される検査の異常値としては1.0が採用されていることが多いはずです。
なのでDダイマーが赤くなっていないから陰性だという勘違いが起こる場合があります。
仮にDダイマーが0.7μg/mLで黒字で表記されていたとしても、大動脈解離の否定に使うのであれば、“陽性”ということになるので注意が必要です。
ちなみにup to dateを読んでいくとDダイマーのカットオフは500mg/dLと表記されています(2020年2月現在)が、元論文では500ng/mLとなっているので、こちらが正しいはずです。
日本の単位に変換して考える時に混乱するかもしれないので念のため。
まとめ
大動脈解離を見逃さないためのDダイマーの使い方について解説しました。
ADDリスクスコア≦1点かつDダイマー500ng/mL未満でほぼ除外可能になります。
Dダイマーのカットオフの値が病院で採用している正常値と違う可能性があることと、この方法でも完全に0%にはならないことに注意が必要です。