来院当日、朝から会社の研修で大声での発声練習をしていた。
研修中から徐々に胸痛が出現し、頚部まで痛みが広がってきたため救急外来を自力受診
発熱無し バイタルサイン安定
胸部レントゲンで縦隔気腫あり
レントゲンで縦隔気腫がある!これって食道破裂??
食道破裂にしては状態が良すぎるね。普通に自力受診できてるし、特発性縦隔気腫かもしれないね!
特発性縦隔気腫??
目次
特発性縦隔気腫とは
特発性縦隔気腫は1939年にHammanさんが、“健康な人に何の誘因もなく 発症する縦隔気腫”を特発性縦隔気腫と定義したのが最初のようです(1)。
誘因なく、とありますが実際はいくつかの誘因が知られています(2)。
- 大声を出す
- 喘息
- 上気道炎(咳)
- 激しい運動
- 出産
いずれも胸腔内圧が上昇しうる状況であることが共通しています。
症状として最も多いのは胸痛ですが、咽頭痛や頚部痛を訴えることもあります。
これは頚部にまで皮下気腫が広がっている影響が考えられます。
特発性食道破裂との鑑別のポイント
特発性縦隔気腫の診断において特発性食道破裂との鑑別が重要になります。
この2つの疾患はCTで縦隔気腫がみられるという点では共通しますが、重症度と予後が全く異なります。
特発性縦隔機種は基本的に対症療法のみで軽快します。
一方特発性食道破裂は緊急手術を行わなければ敗血症性ショックが急速に進み、あっという間に状態が悪化していきます。
両者の鑑別のポイントを図に示します。
ポイントはリスク要因の評価です。
特発性縦隔気腫は若年者に多く、全身状態安定していて縦隔気腫以外にCT所見はありません。
特発性食道破裂は高齢者に多く、全身状態悪く、CTで縦隔気腫以外に胸水や無気肺などが見られます。
判断に迷うような場合であれば食道造影、上部消化管内視鏡を行うことになりますが、診断が明らかであれば省略することも可能です。
特発性縦隔気腫の治療方針
特発性縦隔気腫は基本的に予後良好で治療は鎮痛薬による対症療法です。
入院が必要かという点については議論のあるところですが、全身状態が良く、痛みも自制範囲内であれば外来でのフォローも可能とする文献もあります(4)。
また抗菌薬投与がされる場合もあるようですが、縦隔炎の報告は基本的に無く、理論上は必須ではありません。
私個人は、患者さんの痛みが自制範囲内であれば鎮痛薬の処方のみで外来フォローとすることが多いです。
まとめ
特発性縦隔気腫について、特発性食道破裂との鑑別に触れつつ解説しました。
特発性縦隔気腫の頻度は高くないとされますが、症状が軽いことやレントゲンで縦隔気腫が見逃されやすいことなどから診断されていない例もあるかもしれません。
重要なのは食道破裂との鑑別なので、紹介したアルゴリズムを参考にポイントを整理しておきましょう。
【参考文献】
- Hamman L : Spontaneous mediastinal emphysema. Bull J Hosp 1939 ; 64 : 1―21.
- Abolnik I, Lossos IS, Breuer R. Spontaneous pneumomediastinum. A report of 25 cases. Chest. 1991;100(1):93–95. doi:10.1378/chest.100.1.93
- Bakhos CT, Pupovac SS, Ata A, Fantauzzi JP, Fabian T. Spontaneous pneumomediastinum: an extensive workup is not required. J Am Coll Surg. 2014;219(4):713–717. doi:10.1016/j.jamcollsurg.2014.06.001
- Ebina M, Inoue A, Takaba A, Ariyoshi K. Management of spontaneous pneumomediastinum: Are hospitalization and prophylactic antibiotics needed?. Am J Emerg Med. 2017;35(8):1150–1153. doi:10.1016/j.ajem.2017.03.017