来院前日から緩徐発症の腰痛あり。痛みで夜間眠れず。痛みで動けないため救急要請。体動で痛み悪化するが、安静時にも痛みあり。当院で肺癌の化学療法を受けている。
体動で悪化する痛み出し急性腰痛症かな?痛み止めでちょっと動けそうだし検査はいらないかな・・・
いや、この人の腰痛はレッドフラッグがありそうだし画像検査も検討しよう!
レッドフラッグ??
目次
腰痛のレッドフラッグとは
骨折や悪性腫瘍など危険な腰痛のサインとして「レッドフラッグ」があります。
文献によって項目に若干の違いがありますが、代表的なものを示します。
- 20才未満 or 55才以上
- 安静で軽快しない痛み
- 胸背部痛
- 激しい外傷歴
- 原因不明の体重減少
- 発熱
- 長期間のステロイド使用
- 悪性腫瘍の既往
- 免疫抑制剤の使用、HIV感染症
- 神経学的異常
これらの項目に注意しながら病歴、身体診察を行なっていき、当てはまる項目があれば、画像検査などを考慮するというものです。
ただしこのレッドフラッグも完璧なものではありません。
レッドフラッグの有効性についてのsystematic reviewでは、各項目一つだけが該当するだけではそこまで検査後確率が高くならない(1)、という結果もあります。
なので複数項目当てはまるかどうか、という点も考慮して検査を考えていく必要がありそうです。
腰痛の鑑別FACET
レッドフラッグに注目しつつ、危険な腰痛の原因を考えていくのですが、救急外来で考えるべき危険な腰痛の覚え方として「FACET」があります。
- F:Fracture(骨折)
- A:Aorta(大動脈解離・瘤)
- C:Compression(脊髄圧迫病変)
- E:Epidural abscess(硬膜外膿瘍・椎体炎)
- T:Tumor(悪性腫瘍)
Facetとは椎間関節のことですが、むしろ椎間関節が関連しない痛みをFACETの語呂で覚えることになります。
実際の診療で重視している項目
エビデンスという意味では参考文献のsystematic reviewの通りなのですが、実際はどうしているかというお話をしていきます。
個人的に重視しているのは安静時痛の有無です。
FACETのうちA(大動脈解離・瘤)やE(膿瘍・椎体炎)であれば安静時でも痛みが無いということは考えにくいです。
安静時にも痛みがある、という場合には積極的にCTなど画像検査を検討します。
椎体の骨折を疑っている場合は単純CTでも良いですが、血管病変や膿瘍が鑑別にあがるのであれば造影CTを行う必要があります。
単純CT、造影CT、MRIなどどの検査を選択するかは安静時痛+αの情報で決定していきます(発熱の有無や神経所見など)。
いずれにせよ安静時痛がある、という時点で筋骨格系の痛みと言えない可能性がある、何らかの画像検査をせざるを得ない状況だなと考えます。
一番危ないのは、安静時痛があっても鎮痛薬で良くなったから検査をせずに帰宅、としてしまうことです。
まとめ
腰痛のレッドフラッグと鑑別疾患の覚え方FACETを解説しました。
腰痛で動けない、は救急外来でよく経験する症状ですが見逃すと怖い病気が隠れていることも多いので注意したい症状です。
“レッドフラッグを確認してFACETを除外する”、をいつでも思い出せるようにしておきましょう。
【参考文献】
- Downie A, Williams CM, Henschke N, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review [published correction appears in BMJ. 2014;348:g7]. BMJ. 2013;347:f7095. Published 2013 Dec 11. doi:10.1136/bmj.f7095