造影剤腎症の予防に輸液は効果が無い?非劣性試験の結果から今後どうすべきか

研修医・若手医師

腎機能が悪い人に造影CTや冠動脈造影をする時に、「腎機能悪いから補液しとこう!」と上級医からが言われた経験がある人も多いのではないでしょうか。

点滴しといてって言われたけど、これってどれくらい意味があるのかな・・・

こんな疑問を解決するために、今回は2017年のLancetに掲載された、造影剤腎症に対する輸液の効果を見た非劣性試験を解説していきます。

目次

造影剤腎症のハイリスク症例に生理食塩水の予防投与と“何もしない”を比較した非劣性試験:Lancetより

Prophylactic hydration to protect renal function from intravascular iodinated contrast material in patients at high risk of contrast-induced nephropathy (AMACING): a prospective, randomised, phase 3, controlled, open-label, non-inferiority trial.(PMID:28233565)

Nissan EC. et al. Lancet 2017 Apr

論文の背景として、

腎機能低下患者で造影剤腎症の予防のため、生理食塩水の経静脈的投与がガイドラインで推奨されている

しかし輸液の効果に関する質の高い研究は無く主にエキスパートコンセンサスにもとづいている

輸液による害(静脈炎や肺水腫など)についても十分に検討されていない。

という現状があります。これを受けて、論文の目的は

造影剤腎症の発生率とコスト・合併症を比較し、生理食塩水の予防的静脈投与に対し、予防を行わないことは非劣性かを検討する。

となっています。

論文のPICO

研究デザインは、単施設前向きランダム化非劣性試験です。

P:18歳以上、eGFR<60、緊急でない造影剤投与を受ける患者かつ以下の基準の1つでも満たす症例

  1. eGFR=45-59で、糖尿病か少なくとも2つ以上の Risk factors(年齢>75歳、貧血、心血管疾患、NSAIDsや利尿剤の使用)
  2. eGFR=30-45
  3. 多発性骨髄腫または軽鎖蛋白尿があるリンパ形質細胞性リンパ腫

除外基準:

  • eGFR<30 mL per min/1·73 m2
  • 腎代替療法
  • 緊急処置のための造影
  • 集中治療室の患者

I:予防投与群の介入

以下のどちらかの方法で0.9%生理食塩水を投与

  1. 標準プロトコール:3-4ml/kg/hで造影剤投与前後4時間で投与
  2. 長時間プロトコール:1ml/kg/hで造影剤投与前後12時間で投与

C:非予防投与群(何もしない)

O:Primary outcome=造影剤腎症の発生率費用対効果

 造影剤腎症の定義:投与後2〜6日目にCrの25%ま たは44μmol/L以上の上昇  

※Secondary outcomeの詳細は省略しますが、心不全などの合併症などです

サンプルサイズ

文献から予防投与後の造影剤腎症発生率は2.4% と推定し、non-inferiority marginを2.1%と設定して計算。

→1300人が必要だが、実現可能性を考慮しサンプルサイズは 600人に

結果

解析対象は

予防投与群296人
コントロール群307人

となり、

造影剤腎症の発生(Primary outcome)は

予防投与群8人(2.7%)
vs
非予防投与群で8人(2.6%)

有意差なし(非劣勢マージンを超えず)

平均費用 については

 予防投与群:1455ユーロ
 非予防投与群:792ユーロ 

非予防投与群の方が有意に費用が少なくなりました。 

ちなみに有害事象(Secondary outcome)は症候性心不全が予防投与群で有意に多くなりました。 

考察

造影剤腎症の予防に関する過去の研究は二つの予防法の比較が多い。

非予防群との比較を行ったRCTは3つのみで、2つはST上昇心筋梗塞を対象にし予防の有効性を示したが、ほとんどの症例が元々の腎機能が正常であった。

この研究のようにhigh risk症例に対して非予防群との比較をしたRCTは過去には無い。

Limitation(研究の弱み)

  • eGFR<30は含んでいない
  • 単施設
  • 除外患者が多い
  • 予防投与のプロトコールが2つ
  • サンプルサイズが実現性を考慮し減少している

結論

予防的生食投与は造影剤腎症を予防せず、コストが増えるだけである。

まとめ

造影剤腎症に対する輸液の効果を見た非劣性試験について紹介しました。

造影剤腎症予防に輸液負荷はいらないんですね!

この研究だけで全ての症例で輸液が不要とまでは言えないんだ。緊急処置に関する造影は除外されているし、何よりまだガイドラインでは推奨されてるしね。

では実際のところはどうしたらいいんでしょうか?

少なくとも輸液の害が懸念される症例については予防投与を控えてもいいんじゃないかな。

今後はガイドラインの記述も変わる可能性がありますが、それまではガイドラインの記述を根拠に予防投与を行うのも妥当です。

ただし、今回のRCTを受けて予防投与をあえて行わないということも妥当性があると思います。

特に救急・集中治療関連の症例は除外されちゃってるので、結局のところ“研究結果を踏まえつつ個別に検討”というEBMの基本に従うしか無いですね。