気切チューブを交換するとき、または移動時にあやまって抜けてしまった(事故抜去)時には気切チューブの再挿入が必要です。
交換がスムーズに行けば、チューブをただ入れるだけで終わるのですが、
気切チューブ再挿入がうまくいかず逸脱、迷入した場合は換気困難となり、最悪の場合心肺停止になります。
気切チューブ交換に関連した医療事故の報告は少なくなく、かつ重大な結果になりえます。
ここでは特に初心者が気切チューブ交換を行う時に、最悪の事態を回避するために必ず知っておくべきことについてお話ししていきます。
目次
気切チューブの逸脱・皮下への迷入は致死的
導入でお話してように気切チューブの逸脱、迷入は換気困難となり致死的です。
私もこれまでの施設でそのような事例を耳にしたことがありますし、医療安全調査機構にも死亡例の報告があります。
また、皮下に迷入した気切チューブから陽圧換気を行うと皮下気腫だけでなく縦隔気腫や緊張性気胸を起こすこともあり、さらに状態を悪化させます。
特に気管切開術後2週間以内に多く発生することが報告されており、2週間以内にやむを得ず交換する場合や、事故抜去してしまった場合には注意が必要です。
では術後早期に抜去してしまった場合にどう対応すればよいかについて解説していきます。
初回交換時や挿入困難が予測されればファイバーを持参
まず重要なこととして、初回交換時や2週間以内の自己抜去であれば、ファイバーを持参しましょう。
ファイバーは喉頭ファイバーでも気管支ファイバーでも大丈夫です。
もしうまく挿入できなかった時の対処法として、ファイバーに気切チューブを通しておきます。そしてファイバーを気切孔内へ挿入し、ファイバーが気管内に入ったことを確認してから、気切チューブを挿入していきます。
緊急時にファイバーをすぐに持参することは難しいかもしれませんが、自身で患者さんの対応をしつつ誰かに持ってきてもらいましょう。
人が集まるまでに時間がかかるかもしれませんが、時間をかせぐ最終手段を次に紹介します。
気切チューブが入らない時の最終手段ははBVM換気と経口挿管
最も大事なことは気切チューブの再挿入にこだわらないことです。
これは初心者にありがちですが、気切チューブが入らないときに気切チューブ再挿入しか方法が無いと思い込んでしまいます。
気切チューブが入っている人でも通常通りBVM換気、経口挿管すればよいのです
気切孔が空いているのに換気できるの?と思われるかもしれませんが、
BVM換気する場合は、気切孔を手などで塞げば良いですし、経口挿管も気切孔より深い位置でカフを膨らませば問題無く換気できます。
挿管に自信が無い人でも、最悪BVM換気さえできれば麻酔科医や耳鼻科医などの助けを呼ぶ時間がかせげます。
永久気管孔(喉頭気管分離)されている人は経口挿管はできない
注意点として永久気管孔(喉頭気管分離)の人には経口挿管はできません。
口からは食道にしかつながっていないためです。
ただし、永久気管孔の人の場合はそもそもチューブ挿入困難ということはないはずなので、問題にはなりにくいかと思います。
ただし、まれですが突然の心肺停止の時などで永久気管孔に気づかず口からのBVM換気や経口挿管を試みてしまうという事例もあるようです。
永久気管孔がある人でBVM換気をするのであれば、気管孔のところに小児用のBVMマスクを当てることで換気をする、という裏技的な方法もあります。
まとめ
気切チューブ交換時のリスクとその対処法について解説しました。
気切チューブの皮下への迷入は重大な事故につながります。
特に気管切開術後2週間以内は注意が必要です。
気切チューブの再挿入にこだわらず、BVM換気、経口挿管を実施することで心肺停止を回避できます。
気切チューブ交換時にはそれらも含めて準備しておくと安心です。