失神とてんかんの違い|救急外来での一過性意識障害の考え方

研修医・若手医師
 57才男性
主訴:一過性意識障害
現病歴:仕事で移動するために空港にいた。航空会社のカウンター前で手続きをしている時に突然意識を失ったため空港職員が救急要請。後ろに並んでいた人がとっさに支えたため、頭は打っていない。その場で横にならせていると、すぐに意識は回復した。本人は「気がついたら床で横になっていて、しばらくすると救急隊がやってきた」と。 

こんな症例はおそらく救急外来で働いていれば誰でも経験しうるでしょう。

失神は救急外来を受診する患者さんの約2%程度とも言われており、症例数の多い施設であれば週に2-3例診てもおかしくありません。

ところで、冒頭の症例は失神と言って良いでしょうか?

一過性意識障害として救急外来にやってくる患者さんは失神以外にてんかんの可能性も考える必要があります。

失神とてんかんは原因となる疾患が全く異なるので、必要な検査も変わってきます。

なのでまず最初に失神かてんかんかを見極めることが重要になります。

ここでは

  • 失神とてんかんの違い(見分け方)
  • 失神の鑑別診断の考え方
  • 失神かてんかんか判断に迷うときはどうするか

について救急医がわかりやすく解説していきます。

失神とてんかんの違い(見分け方)

失神かてんかんを分ける最も重要な病歴は意識が戻るまでの時間です。

失神は5分から長くても10分以内に意識が完全に普段通りに戻る、というのが特徴です。

てんかんは意識が戻るまでの時間が比較的長く、興奮状態や傾眠状態などを経て徐々に戻ってきます。

それ以外にも以下のような病歴・身体所見が参考になります。

てんかんらしい病歴・身体所見
  • 頭部の回転(+LR14)
  • 失禁(+LR6.7)
  • 舌咬傷(+LR17)
失神らしい病歴・身体所見
  • 意識を失う前の呼吸苦(+LR13)
  • 意識を失う前の動悸(+LR8.6)
  • 長時間立位後の意識消失(+LR20)

特に尤度比が高いものを3つずつ紹介しました。

他にも参考となる病歴・身体所見については下記のJAMAの論文に詳しく解説されているので参考にしてください。

Did This Patient Have Cardiac Syncope?The Rational Clinical Examination Systematic Review(PMID: 31237649)

意識が戻るまでの時間を確認するための問診のコツ

「本人に何分くらい意識が無かったですか?」と聞いてもおそらく答えられないか、答えられたとしても信頼性が低い場合があります。

僕がおすすめ している質問の仕方は「救急隊が現場に来たことを覚えていますか?」です。

日本の救急車はよほどの田舎でなければ平均約10分程度で現場に到着します。

なので救急隊が自宅などへ到着した時のことを覚えているのであれば、意識障害の持続時間は長くても10分程度と言えるでしょう。

つまりこの場合は「失神」を考える状況です。

冒頭の症例も「気がついてから救急隊がきた」と言っているのでおそらく意識消失は短時間であり、失神の可能性が高いです。

逆に病院に到着したくらいから記憶がある、病院に到着したこともあいまい、という場合は意識が戻るまでに30分以上かかっている可能性が高いと言えるでしょう。

この場合は「てんかん」の可能性を考える必要があります。

失神の鑑別診断の考え方

失神の鑑別トップ3
  • 心原性失神
  • 起立性失神(血管内容量減少性)
  • 迷走神経反射

失神の鑑別で特に重要なものが上記の3つです。

頻度が最も多いのは迷走神経反射です。

心源性・起立性(血管内容量減少性)は致死的となりうるため、失神の鑑別には常にあげておきたい疾患(病態)です。

これら以外で頻度が低いものの致死的な原因として以下のものがあります。

頻度は低いが致死的な失神の原因
  • 肺塞栓症
  • 大動脈解離
  • くも膜下出血

失神の鑑別に原則頭部CTは不要ですが、ごく稀にくも膜下出血が原因のことがあります。

ただ、僕が経験したくも膜下出血が原因の失神の患者さんは全例意識が戻った後も激しい頭痛が続いていました。

なので「失神では原則頭部CTは不要、ただし頭部打撲や激しい頭痛があるときは頭部CTを施行する」という考え方で良いと思っています。

リスクの高い失神を見逃さないためのコツについては別記事、心原性失神を見逃さないためのclinical decision rule(CDR)を比較、で詳しく解説しているので参考にしてください。

高齢者の失神では内服薬も必ず確認を

また高齢者の失神の原因として薬剤による失神が増えている印象があり、内服薬のチェックも重要です。

よく経験するのはβブロッカーが処方されている高齢者の腎機能が徐々に悪化して、血中濃度が上がってしまい徐脈となっている場合があります。

また原因のはっきりしない下腿浮腫に対して漫然と利尿薬が増量され続けて脱水からの起立性失神となる、というパターンもしばしば経験します。

失神かてんかんか判断に迷うときはどうするか

目撃者が通行人の場合などで病院に来てくれない場合や、そもそも目撃者がいない時などは、意識が無かった時間がわからないこともあります。

そうなると診療開始時点で失神かてんかんか判断がつかない場合もよくあります。

その場合は、失神・てんかんどちらの可能性も考えて並行してい鑑別を進める、ということになります。

具体的には心電図、血液検査、Shellong試験などを進めつつ、頭部CTでてんかんの原因となりうる頭蓋内疾患も除外する、というような流れになるかと思います。

まとめ

失神かてんかんかの違い、失神の鑑別、そしてどちらか迷った時にはどうするか、についてお話しました。

研修医の先生に指導するときは例えとして「迷路で入り口を間違えるといくら時間をかけても正しい出口にはたどり着けない」と言ったりしています。

慌てて検査を出す前に、まずは失神かてんかんかを見極めることからはじめましょう。

おすすめの質問は「救急隊が現場に来たことを覚えていますか?」です。

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