失神で救急外来を受診した患者さんを診て、「心原性失神ってどうやって否定したらいいんだろう?」、と疑問に思ったことはないでしょうか。
失神のリスクを評価する方法としてサンフランシスコルールって聞いたことある(教科書に載ってる)けど、どれくらい有効なの?
などの疑問を持った方に読んでいただきたい記事です。
ここでは失神のリスクを評価したClinical decision rule(CDR)を比較したメタアナリシスをもとに
- 失神の4つのCDRの紹介
- 各CDRの感度・特異度・尤度比
- 実際の診療でどう考えるか
についてお話ししていきます。
目次
失神のリスク評価ための4つのclinical decision rule(CDR)
失神のリスク評価のためのCDRはいくつかありますが、このメタアナリシスで扱われた4つのスコアを紹介します。
San Francisco Syncope Rule(SFSR)はCHESSで覚える以下の項目です。
- C:History of CHF
- H:Hematocrit<30%
- E:ECG異常
- S:History of SOB
- S:SBP<90mmHg
OESIL risk scoreは以下の4項目です。
- Age >65 year old
- History of Heart disease
- Prodrome
- ECG異常
ROSE studyはBRACESで覚える6項目です。
- B:BNP>300pg/mL, Bradycardia(<50/min)
- R:rectal examination(blood stool)
- A:Anemia(Hb<9.0)
- C:Chest pain
- E:ECGでQ波
- S:Saturation<94%(room air)
Boston Syncope Ruleは最も項目が多くて以下の8項目です。
- Signs and Symptoms of ACS
- Worrisome cardiac history
- Family history of sudden death
- Valvular heart disease
- Signs of conduction disease
- Volume depletion
- Persistent abnormal vital sign
- CNS:primary CNS event
各CDRの感度・特異度・尤度比
SFSRは最も有名な失神のCDRの一つですが、感度・特異度ともにイマイチで、これだけで何も言えないのが現実です。
最も陽性尤度比(+LR)が高いのはROSE studyですがそれでも+LRは3程度です。
Bostonルールは最も陰性尤度比(–LR)が低いのですが、8項目と項目数が多いのが難点です。
実際の臨床では失神にどう対応するか
このメタアナリシスの結論としては
失神におけるCDR、リスクスコアは限界がある、です。
San Francisco Syncope Rule (SFSR)とOESILについてexternal validation(外的妥当性の検討)がされているものの、その他はされていません。
“外的妥当性”とは、別の集団・施設においても同じ結果になるかを確認する作業(研究)のことです。
そしてSFSRもOESILについても感度・特異度などから、それのみで入院適応を判断するには不十分ということになります。
では実際の臨床ではどうするか。
それはこれらのCDRを参考に、こういう項目が当てはまればリスクが高いと認識する。そしてそのリスクを踏まえて経過観察入院をするかどうかを本人・家族と相談していく、ということになります。
4つのルールを見渡す、心電図変化は必ず入ってきますし、貧血や直腸診など消化管出血を示唆する所見も重要視されています。この辺りを特に重視しつつ、実際の判断は診療担当医に委ねられるのが現状です。
まとめ
失神のリスクを評価するCDRの比較について解説しました。
失神症例を経過観察入院するかどうか、については現時点では明確な基準や正解は無い、というのが事実です。
CDRをそのまま使うのではなく、どのような項目がリスクとなりうるのかを知った上で、目の前の患者さんをどうするか、は診療担当医の考えと本人・家族の希望を踏まえて個別に判断していくことになります。