肺炎は日常的によくみる疾患の代表です
だからこそ、日常すぎるために意外と“医師が肺炎を診療する時にどう考えているか”という話を聞く機会は少ないかもしれません
「この患者さん、酸素は要らないのに入院になったのは何で?」
「痰の培養って何のためにとってるの?」
「肺炎が良くなったかどうかは何で判断しているの?」
など疑問に思うことがあるかもしれません
これらの疑問に答えつつ、特に看護師さんにぜひ知っておいてほしい、肺炎診療の時に医師が何を考えているか、について救急医がわかりやすく解説します
目次
肺炎で入院するかどうかは重症度で決まる
救急に慣れてる看護師さんであれば
酸素を吸ってるなら入院でしょ、リザーバーマスクまで使ってるなら挿管になるかもしれないしICUかな、と呼吸状態をみて方針を予想しているかもしれません。
これは間違っていません
ただし、これは呼吸状態のみでの判断なので不十分なのです
医師が肺炎を診療するときに、入院するかどうかは重症度で判断しています。
そして肺炎の重症度を評価するためのスコアがあって、その中でADROPスコアというものを紹介します。
それぞれの項目の頭文字をとってADROP(エードロップと読みます)です。
呼吸状態だけでなく、意識、循環、脱水、年齢などをトータルで評価しています。
スコアによって外来治療、入院治療、ICU治療と判断する目安になるのです。
ただしこれは万能ではありません。
まずこのスコアは一般的な肺炎(市中肺炎)を対象に研究されたものなので、誤嚥性肺炎など特殊な状況での肺炎には使えません。
またスコアの重みづけが無いため、例えば呼吸状態だけがものすごく悪いもののそれ以外の項目は当てはまらない、という場合には1点しかつかつきません。外来 or 入院となってしまいますがこの場合は当然入院必須です。
また社会背景などがスコアに反映されていないのも弱点です。軽症に該当したとしても、独居であったり、もともとのADLが良くない場合などは入院を考慮する必要があります
ADROPで重症度を評価しつつ、社会背景なども考慮して総合的に判断することになります。
酸素が不要な患者さんでも入院になることがある、というのが理解いただけたはずです。
ADROPスコアについては医師向け記事肺炎の重症度評価!ADROPの実際の使い方もぜひ参考にしてください
痰培養って何で取るの?
「痰の培養とっていてねー」
といつも言われるものの、吸引して痰をとるのも大変だし、レントゲンで肺炎て診断されてるのに何でわざわざ痰の検査をするの?と思ったことは無いでしょうか。
痰の培養の検査が必要な理由は、肺炎の診断というよりも抗菌薬の正しい選択のためなのです(診断にも役立つこともあります)。
ここで感染症診療の原則を簡単に紹介します。
細菌感染症の治療には原則抗菌薬を使います。
その抗菌薬を選択する上で三角形の頂点に配置されている、感染臓器と微生物の情報が必要になるのです。
例えば肺炎の場合は感染臓器は「肺」です。そして肺に感染しうる細菌の種類はある程度絞られます。代表的なものは肺炎球菌ですが、他にも5-6種類ほどの菌が想定できます。
救急外来では培養の結果が出ていない状態で抗菌薬投与をするので、この想定される数種類の細菌をカバーする抗菌薬を投与します。これを経験的治療(エンピリックセラピー)と言います。
そして痰培養の結果が2−3日後に出るので、菌名が確定すればより狭い範囲に効果がある抗菌薬へと変更できるのです。
ここでとても重要なことは
抗菌薬を投与した後に痰培養を採取すると、培養結果が陰性となってしまう確率が増える、ということです
抗菌薬を投与すると、痰の中に排出される菌の数がぐっと減ってしまうのです。
培養結果が陰性となってしまうと、広い範囲の細菌に効果がある抗菌薬を使い続けざるをえなくなってしまうので、耐性菌出現のリスクが増えてしまうのです。
そして、適切な結果を得るためには良質な痰を提出することが重要です
痰の質については以下の分類が用いられます
表現 | 性状 |
M1 | ほぼ唾液 完全な粘性痰 |
M2 | 粘性痰の中に膿性痰が一部含まれる |
P1 | 膿性部分が3分の1以下 |
P2 | 膿性部分が3分の1〜3分の2 |
P3 | 膿性部分が3分の2以上 |
この中でP2以上であれば良質な痰と言えるでしょう
逆にM1などであれば、培養結果が出ても口腔内の常在菌を見ているだけの可能性が高いので、参考にできない可能性が高いです
なので質の低い痰は提出しないという選択も重要です
唾液のような痰しかとれなかった時は、「先生こんな感じのしかとれないんですが、提出していいですか?」と確認してくれるととても助かります。
肺炎が良くなったかどうかは何で判断するか?
肺炎で入院した患者さんが良くなっているかどうかはとても重要です。
もしも良くなっていなければ治療を見直さなければなりません
肺炎の治療の指標になるのは以下の項目があります
臓器特異的というのは、肺炎の時に特徴的に現れる変化のことです。
臓器非特異的なものは、他の感染症などでも変化しうるものです。
そしてこれらが改善していく順番も重要です
治療がうまくいっていれば、呼吸状態(呼吸数、SpO2、酸素必要量)がまず改善しはじめます。そして発熱や、見た目の元気さなど臓器非特異的な指標が改善していきます。
発熱やCRPなど臓器非特異的な指標のみをみてしまうと、変化に気づけない(気づくのが遅くなる)ことがあります。
特に呼吸数は肺炎に限らず早期に変化が出ることがあるので重要ですが、測定されていない事が多いので、ぜひ医師の指示が無くても呼吸数を日常から記載する習慣をつけてください。
呼吸数の重要性については別項目、看護師さん向け!呼吸数がなぜ重要か?を救急医が解説しますもぜひ読んでみてください
また、レントゲンの所見が改善するのは比較的遅いので「レントゲンが改善していないから良くなってない!」とは言えません。
まとめると、肺炎はレントゲンやCRPでは無く、呼吸状態や咳・痰の量など臓器特異的な指標から改善していくので、特に重点的に観察する必要があります。
まとめ
- 肺炎で入院かどうかは重症度で決まる!重症度評価の方法としてADROPがある。
- 痰培養は抗菌薬投与前に採取する必要あり!質の良い痰をとる事が重要。
- 肺炎が良くなったかどうかは、臓器特異的な指標(呼吸状態など)で判断する!レントゲンやCRPが改善するのは少し後になる。