「DNARって言う人とDNRって言う人がいるけど何が違うの?」
「DNARだからICU入室はできないの?」
「急変時DNARって言われたけど、本当に何もしなくていいの?」
DNARという言葉は一般的によく使われていると思いますが、DNARが意味するところが担当医によって違うような気がしてもやもやすることありませんか?
ここではDNARにまつわる「もやもやした感じ」を解決していきます!
目次
DNARとDNRとの違い
人によって(もしくは施設によって?)DNRと言ったり、DNARと言ったりすることありませんか?
DNARとDNRは根本の意味するところは心停止時に胸骨圧迫などの蘇生行為を行わないと言う意味は一緒です。
元々はDNRという言葉が最初にできて、その後DNARに置き換わっていったのですが、上の世代の先生たちはそのままDNRを使っていることもあるかもしれません。
ではなぜDNRがDNARに置き換わったのか?
これは歴史的な背景と英語の意味するニュアンスの問題が関わってきているようです。
1970年代ごろから、DNRという言葉が使われるようになってきたようですが、Do Not Resuscitattionは直訳すると「蘇生するな」ですが、「(やれば蘇生するかもしれないけど)蘇生するな」というニュアンスになるようです。
その後1990年代になり、DNAR(Do not attempt resuscitation)という言葉が提唱されました。
直訳は「蘇生を試みるな」ですが日本語訳だけ見ると、何が違うの?という感じですが、英語圏の人に言わせると「(蘇生ができる見込みが低いので)蘇生を試みるな」というニュアンスになるようです。
DNRだと“できるのにやらない”という誤解が生じる(日本人にはピンときませんが)、と考えられDNARという用語が提唱されるようになった、ということのようです。
個人的には日本ではDNRでも上記のニュアンスの問題は生じにくいと思うので、用語がどちらかというのはそこまで問題無いと思っています。
ただし、DNRという用語を使う人は後述する“DNAR(DNR)の意味するところ”についても誤解もされている事がある(あくまでも個人的な見解です)ので、相手が「DNR」という用語を使った時には、その意味するところについて確認したほうが良いかもしれません。
DNARは心停止時のみ有効!
重要な大前提としてDNARは心停止時のみ有効な指示です。
これは日本集中治療医学会が2016年に出した『Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告』でも強調されており、
DNAR指示は心停止のみに有効である。心肺蘇生不開始以外については集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである。
とあります。
ここで重要なのは、DNAR指示が心停止時以外の治療方針に影響を与えてはいけない、という点です。
「DNARだから集中治療室には入れなくていいよね?」とか「DNARだから挿管はしないよね?」というのは適切では無いという事です。
もちろん、DNARと合わせて病態・状況を考慮して家族と相談の上で心停止にいたる前でも挿菅はしない方針である、というのは全く問題ありません。
その場合はDNARかつDNI(Do Not Intubation)という表現を使うことになります。
心停止にいたる前の「急変時」の対応については別に議論しましょうね、ということです。
ですので「急変時DNAR」という言葉も使わないようにしましょうという事も勧告の中で述べられています。
もしもDNARの意味が十分に組織内で共有されていないのであれば、あえて「心停止時DNAR」と表現するのが無難かもしれません。
WithdrawalとWithholdとは
心停止時以外のことについては別に議論する必要がある、ということは理解いただけたと思いますが、
状態が悪い患者さんの時に、「今やってる治療以上のことはしない方針です」、とか、「点滴も昇圧薬も減らしていって、看取りの方針です」とかいう会話はよくあると思います。
この辺のこととDNARがごっちゃになっている事があって、もやもやの原因のひとつじゃないかなと思います。
この辺りの表現方法として、
- 今やっている事以上の治療は追加しない=Withhold
- 今行っている治療を積極的に終了していく=Withdrawal
として治療方針を共有する事があります。
“DNARかつWithhold”や“DNARかつWithdrawal”といった感じであれば、心停止前の状況での大まかな治療方針が共有しやすいですよね。
心マはするけど挿管はしない!?Partial DNARはだめ
Partial DNARというとあまり聞きなれないかもしれませんが、
心停止になった時に、「心マはするけど挿管はしない」という心肺蘇生処置の一部のみを行う指示のことをPartial DNARといいます。
集中治療医学会の勧告では
Partial DNAR指示は行うべきではない
とあります。
心肺蘇生はその一部だけを行っても効果が得られないのは明らかで、救命を目的とするならば全て行うべきですし、そうでないならば全て行わないのが良いという事です。
形だけの心肺蘇生をせずに、あらかじめ蘇生困難が予想されるのであれば処置はしないでおきましょう、というのがDNAR本来の考え方です。
DNARに関するおすすめ書籍
今回お話した内容に関してさらに深めたい、特にWithdrawalやWithholdについて具体例な考え方を知りたい、という人におすすめの本が「INTENSIVIST 特集 End-Of-Life」です。
インテンシビスト、という集中治療関連のテーマを特集する雑誌ですが、DNARなど終末期の対応に関してここまで深めて特集している本はなかなかありません。
集中治療に関わる人向けの雑誌ですが、このEnd-Of-Lifeに関しては終末期に関わる全て医療従事者にとって参考になる内容です。
まとめ
DNARにまつわる用語の確認を中心に解説しました。
DNARの決定には1人の医師だけで判断せずに、家族やコメディカルスタッフなど複数人で話し合う事が重要です。
倫理的問題について議論するためには、「臨床倫理の4分割表」の活用も有効です。
臨床倫理の4分割表って何?という方は、臨床倫理の4分割表の使い方【初心者向けに解説】、の記事も読んでみてください。