みなさんが毎日のように測定してくださっているバイタルサインですが、呼吸数って毎回記載していますか?
呼吸数は重要な指標なのに、あまり測定されていないことが問題です。
呼吸数という指標がなぜ重要なのか?救急医がどのように考えているか?を基本を確認しつつわかりやすくお話しします
目次
バイタルサインの基本
基本の“き”のお話ですが、バイタルサインって何でしたっけ?
よく「バイタル=血圧」のように使われている場面も見かけますが、実際は次の4つです。
- 呼吸数
- 血圧
- 脈拍
- 体温
勘違いしやすいポイントとして、SpO2はバイタルサインではありません。
バイタルサインでは無い=重要では無い、という意味ではありません。SpO2の値は酸素投与するかどうかの判断に使うので、バイタルサインを測る時には一緒に測定するのが普通です。
むしろ実際の現場でSpO2は測られるけど、バイタルサインである呼吸数が測られていないことが多いのではないでしょうか。
酸素がいるかどうかはSpO2でわかるんだし、わざわざ呼吸数を測らなくてもいいんじゃない?と思った方もいるかもしれません。
ところが呼吸数はSpO2では代用できないんです。
この詳しい理由は後述します。
呼吸数の重要性と測定するコツ
呼吸数は重要な指標にも関わらず測定されないことが多いことが問題です。
呼吸数が測られない大きな理由としては
測定するのが煩雑、重要性が今ひとつよくわからない、などがあると思われます。
なので
- 呼吸数を測定するコツ
- 呼吸数がなぜ重要か(なぜSpO2では代用できないのか)
について解説していきます。
呼吸数を測定するコツ
「呼吸数は測定するのが煩雑である」と言われて、
別にそんなことないのでは?と思った方は、おそらく呼吸数の測定方法が間違っています。
モニター画面に表示される呼吸数の値をそのまま呼吸数として記載するのは正しい方法ではありません。
モニター上の呼吸数は体動があったり呼吸パターンによっては正しい数とはならないことがあるからです。
またモニターが無い状態で呼吸数が測定できないというのも問題ですので、必ず実際に呼吸の回数を数えてください。
成人の呼吸数の正常値は12-20回/分とされています
腕時計を見ながら、最低でも15秒×4、できれば30秒×2で計算してください。
もしどうしても時間が無いということであれば、何秒に1回呼吸をしているかだけでも観察してください。
2秒に1回以上ならば30回以上だから頻呼吸だ!、3秒に1回以下なら20回以下だからとりあえず大丈夫そう!ということがある程度判断できます。
呼吸数がなぜ重要か(3つの理由)
呼吸数が何故重要なのか?の答えは
頻呼吸が重症であることのサインだからです。
患者さんの状態が悪化する際に最も早く現れる異常が頻呼吸のことがあります。
1.病棟急変の最初のサインが頻呼吸のことあり
病棟患者さんが急変した多数の事例を後から解析したところ、実は血圧などが下がる数時間前には多くの症例で頻呼吸が出現していた、という研究結果があります。
なので僕らは“急変”という言葉を使いがちですが、本当に突然状態が悪化している例は多くなく、実は急変したと感じる少し前に頻呼吸という変化があらわれていた、ということなんです。
患者さんが急変(急に変化)した、のではなく、僕らが気づいた時には急激に変化したように感じた(実際は徐々に悪化していたが)というのが現実なのです。
2.敗血症の早期診断のための指標としての頻呼吸
2016年に敗血症の定義が改定されましたが、その際に敗血症を早期発見するために画期的な判定方法が提示されました。
qSOFAというスコアです。
qSOFAは感染症を疑う患者さんで
- 意識レベルGCS< 15
- 収縮期血圧<100
- 呼吸数>20
のうち2つ以上を満たせば敗血症の可能性を考えて急いで対応しましょう、というものです
もともとSOFAスコアというものがあり、6つの臓器(中枢神経、呼吸、循環、腎臓、肝臓、凝固能)の指標を点数化したものですが、qSOFA(qはquickの頭文字)はこれを簡略化したものです。
正確な敗血症の診断には本来のSOFAスコアで2点以上増加、が必要なのですが、ICU以外ではなかなかすぐに全項目測定するのは大変なので、まずはqSOFAでスクリーニングしていきましょうということです。
呼吸数が測定されないと、たった3項目しかないスコアのうち1つが無くなってしまい判断できません
ですので発熱など、感染を疑う症状で来院された患者さんでは特に必ず呼吸数を数えるようにしましょう!
qSOFAについては、qSOFAスコアとは|敗血症のスクリーニングツール、の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。
3.腹痛症例での重篤なサインとしての頻呼吸
腹痛患者さんで頻呼吸がある場合は単なる腹痛ではない場合があります。
腹痛診断に関する昔からある教科書で「COPE(コープ)」という医師が書いた本があるのですが、そこでは
「痛みだけや単なる脱水で、呼吸数が正常値の2倍を超えることはない」と書かれています。
痛みで呼吸が増えることや、過換気になってしまう患者さんは確かにいますが、痛みのせいだけでなく重篤な状態つまり腹膜炎を起こしている可能性を考えましょう、ということなのです。
昔からある教科書で科学的な根拠については記載がないのですが、経験ある医師も呼吸数の重要性を認識していた、ということは事実のようです。
SpO2は酸素の投与量などを判断する指標であることに対して、呼吸数は重症度に関わってくる要素だということがわかっていただけたかと思います。
※上記3つ以外にも呼吸数が重要な場面はたくさんあります
肺炎診療での呼吸数の重要性については、看護師さん向け!肺炎の診療で医師が何を考えているかもぜひ読んでみてください。
まずは普段から患者さんの呼吸数を数える習慣をつけていきましょう!
まとめ
- 呼吸数は患者さんの重症度反映する重要なバイタルサイン!
- モニターではなく、必ず直接見て数えよう!
- 頻呼吸を認識することで、病棟急変や敗血症に早期に気づける可能性がある!