臨床で倫理的な問題点を議論するにあたって、「多職種でカンファレンスをしましょう」というのがここ最近の流れです。
ですが、せっかくみんなで集まって話し合ってもイマイチ方向性が定まらずに結論が出なかったりして困ったことはありませんか?
ここでは臨床倫理を議論する上で欠かせない、「臨床倫理の4分割表」について解説します。
目次
臨床倫理の4原則とは
4分割表と混同しやすいのですが、臨床倫理には4つの原則があります。
- 自律性尊重
- 善行
- 無危害
- 公平・公正
ただし、この4原則をそのままながめていても実際の臨床の現場で議論をするときに使いにくいのです。
そこでこの4原則を実際に倫理的な問題を議論するときに使いやすくするために、4つの要素に落とし込んだ「臨床倫理の4分割表」をJonsenさんという人が考えたのです。
その臨床倫理の4分割表について簡単に解説していきます。
臨床倫理の4分割表とは
この4分割表が、実際に事例を検討していくときに使う表です。
ちなみにどの要素にどの原則が対応しているかをまとめると以下のようになります。
- 医学的適応:②善行+③無危害
- 患者の意向:①自律性尊重
- QOL:①自律性尊重+②善行+③無危害
- 周囲の状況:④公平・公正
実際の議論のやり方としては、ホワイトボードなどに縦横の線を1本ずつ引いて4つの区画を作ります。
そして表の中にあるような問題点について列挙していきます。
それぞれの要素を書き出していくと、どの部分に問題があるのか?、そしてどことどこが対立しているのか、が見えるようになってきます。
やってみるとわかるのですが、起きている問題のほとんどは、実はある部分の議論が足りないために不要な対立が起きている、という構図になっている場合が多いです。
例えば医学的適応の部分で、そもそも予後に関する検査・疫学的データについて議論が不十分であることがわかったとします。
そこが明らかになることで患者の意向の要素である、患者が利益とリスクと理解しているか、の部分が解決されて話し合いがスムーズに進む、ということがありえます。
また、極端な例ですが患者さんが積極的な安楽死を希望した場合に、法律が認めている国もあれば、日本のように認められない国もあるわけです。
なので法律の範囲内で患者さんの希望を叶えるためにはどういうアプローチが可能か、そもそもQOLの要素である緩和ケアの計画はどうなっているのかなどを議論することになります。
臨床倫理学 第5版
Albert R.Jonsen
臨床倫理を勉強するのであれば、Jonsenの「臨床倫理学」は必読書です。
筆者も実際に職場でこの本を使って「臨床倫理の勉強会」をやりました。
著者は米国人ですが日本語訳されているので心配ありません。
4分割表の総論についてはもちろんですが、
4つの症例(細菌性髄膜炎、インスリン依存型糖尿病、多発性硬化症、乳がん多発転移あり)が登場し、実際に4分割表に沿ってどのように検討していくのかが解説されます。
なんとなく4分割表の全体像はつかめたけれど、具体的にどうやって議論を進めるかが知りたい人、におすすめの一冊です。
この本を読むことで、倫理的問題点は論理的に解決できるということが実感できるはずです。
まとめ
臨床倫理の4分割表の使い方について概要を解説しました。
臨床倫理は最初はとっつきにくいイメージですが、学べば学ぶほど面白くなり、また実際の臨床で非常に役立ちます。
この記事や本を読んである程度理解できたら、実際に倫理カンファレンスをやってみましょう。
臨床倫理に関連して、DNARとは?|DNRとの違い・withdrawalとwithhold、partial DNARについて解説、という記事も書いているので良ければ参考にしてください。