救急外来での心不全の対応といえばバルーン入れてラシックスを静注!と思っていたら、
「ニトロの持続点滴をしよう」となることもあったり
利尿薬を入れない時もあるのはなんでだろう?と思うことはないでしょうか。
ここでは主に初心者向けに救急外来での心不全の初期治療の考え方について解説していきます。
目次
心不全のクリニカルシナリオ とは|来院時の血圧で初期治療を分類
心不全の原因を考えるためには前負荷、収縮力、後負荷の3つの要素を考える必要があります。
前とか後というのは、心臓の前と後です。
前負荷は心臓に入ってくる血液、つまり体液量の事です。
体重が増えて下腿浮腫が見られる状態は前負荷が上昇している状態です。
いっぽう後負荷は全身の血管抵抗、つまり血圧の事です。
血圧が高くて心臓から先に血液が送り出せず、結果として心臓の手前にある肺に水が漏れて肺水腫となってしまいます。
収縮力は一番イメージしやすいかもしれませんが、収縮力が極端に下がると心臓が血液を送り出すことができず、各臓器に十分な血液が送れなくなります。
これらの3つの要素が“心不全”という状態を考える上での基本になるのですが、救急外来に来てすぐは情報が足りないことが多いのです。
いろいろと情報を集めているうちに治療開始が遅れたり、とりあえず利尿薬を使用してしまう、という問題がありました。
これを解決するために生まれたのがクリニカルシナリオ(CS)という考え方です。
これは非常にシンプルで、来院時の収縮期血圧によって初期治療を判断しようというものです。
CS1:収縮期血圧>140はNIVと降圧薬
CS1(シーエスワンと読みます)は収縮期血圧>140mmHgの時です。
これは後負荷が高くなっている状態で、レントゲンでは特に肺水腫が目立つことが多いです(肺が真っ白な状態)。
治療としてはNIVと硝酸薬になります。
硝酸薬とはニトログリセリンなどが代表的ですが、Ca拮抗薬などの降圧薬ではなく、硝酸薬なのはなぜか?という疑問があるかもしれません。
硝酸薬や動脈だけでなく静脈の拡張作用をあるとされており、心不全における前負荷の改善にも効果が期待できるためです(あくまでもメインは後負荷改善が目的ですが)。
CS2:収縮期血圧100〜140は利尿薬投与
CS2は収縮期血圧100〜140mmHgの時です。
主に前負荷が大きい状態で、体重増加や下腿浮腫が目立ちます。レントゲンでは肺水腫は軽度で心拡大や胸水が目立つ場合が多くなります。
治療は利尿薬になります。
CS3:収縮期血圧100未満は強心薬投与
CS3は収縮期血圧<100mmHgの時です。
心臓から血液が送り出せないことによる症状がメインで心原性ショックもこの中に含まれます。
肺水腫や下腿浮腫などは目立たず、倦怠感などの症状が目立つことが多いです。
治療は強心薬で血圧が維持できなければ血管収縮薬(いわゆるカテコラミン)を用いることになります。
心不全のクリニカルシナリオの限界
クリニカルシナリオは血圧で分類しているので非常にシンプルなのが利点ですが同時に弱点でもあります。
実際には前負荷、収縮力、後負荷のどれかだけが異常ということはむしろ少なくて、むしろ全てに問題があることの方が多いです。
あくまでもメインの病態はおそらくこれ、というのを血圧から判断しているだけです。
なので、血圧でいうとCS1なんだけど、下腿浮腫や体重増加もあってやっぱり利尿薬も併用しよう、というのはよくあります。
あくまでも救急外来での初期治療の目安だということを忘れないでください。
詳細な病歴や身体所見、エコーなどを含む検査の結果で治療を考えていくので、入院時にはクリニカルシナリオにこだわらずに治療を考えることになります。
心筋梗塞の否定が最優先
心不全診療の大前提として、心不全の原因が急性心筋梗塞ではないことを確認する、ということがあります。
クリニカルシナリオにもCS4という形で分類されていますが、この場合はすぐに循環器内科を呼んで緊急カテが必要になります。
クリニカルシナリオを考えながら、常に心筋梗塞が原因じゃないかということを考えておく必要があります。
まとめ
心不全の初期治療についてクリニカルシナリオの話を中心に説明しました。
まずは来院時の血圧に注目して初期治療の基本を覚えましょう。
ただし血圧だけでの治療には限界があるので、心不全の原因や3つの要素(前負荷、収縮力、後負荷)を考えながら、治療にあたることが重要です。