救急外来での低カリウム血症の治療3つのポイント

研修医・若手医師
65才男性
アルコール利用障害で精神科受診を勧められているが受診していない。1ヶ月ほど前からほとんどお酒を飲む以外に経口摂取しなくなった。数日前からほとんど自力で動けなくなり家族が救急要請。来院時血液ガスでK1.8と低カリウム血症を認めた

K1.8は重症だ・・・、急いでカリウムの補正を始めないと・・・

そうだね、心室性不整脈を起こすこともあるのですぐに補正を開始しよう。マグネシウムの補充や代謝性アルカローシスの補正も忘れずに!

(カリウム入れるだけじゃないの??)

低カリウム血症の原因はたくさんありますが、救急外来で補充を開始しなければならないほどの重度の低カリウム血症の原因となる病態は限られます。

筆者の個人的な経験ではほとんどの場合以下の3つです。

救急外来でカリウム補充開始が必要になることが多い病態
  • 慢性アルコール中毒(アルコール利用障害)関連
  • 甲状腺機能亢進に伴う周期性四肢麻痺
  • DKA治療開始後のカリウム低下

K2.5mEq/L未満となるような重度の低カリウム血症は心室性不整脈のリスクもあり救急外来から補正をはじめる必要がありますが、単にKCLを投与するだけでは不十分かもしれません。

ここでは、救急外来で低カリウム血症の補正をする場合に考えるべきポイントを主に3つ解説していきます。

本稿の主な参照元はup to dateの”Clinical manifestations and treatment of hypokalemia in adults “です。

そこに筆者の経験を交えて解説して行きます。

※記事の最後で輸液メニューの例を挙げますが、カリウムの点滴の濃度・速度については施設のルールが決まっていることも多いのでそれに従ってください。 

目次

救急外来での低カリウム血症の治療戦略

救急外来での低カリウム血症治療の治療には主に3つのポイントがあります。

  • カリウム補充
  • マグネシウム補充
  • 代謝性アルカローシスの補正

カリウムの補充は当然ですが、それ以外の2つ、マグネシウム補充と代謝性アルカローシスの補正は忘れられがちです。

ここから一つずつ解説して行きます。

カリウムの補充

低カリウム血症の治療の基本は当たり前ですがカリウムの補充です。

補充する際に考えるべきは、投与経路、投与濃度、投与速度です。

カリウムの投与経路

カリウムの投与経路
  • 末梢ルート
  • 中心静脈ルート
  • 経口(内服薬)

あくまでも個人的な意見ですが、ほとんどの症例で末梢ルート±経口投与で対応可能と考えます。

「でも中心静脈からの方が早く補正できるんじゃないの?」

という疑問を持たれた方もいるかもしれません。

中心静脈を使うメリットは投与濃度を濃くできることと血管痛を起こさないことです。

“投与速度”が速くできるわけではないんです。

中心静脈ルートを使用する場合があるとすれば主に2つで、1つは心外術後などですでにCVCが留置されている場合、もう1つは心不全などで水分負荷ができない場合です。

すでにCVCがあるのであれば、あえて血管痛のリスクがある末梢から入れる必要はないので中心静脈を選択するのが妥当です。

ただし、カリウムの補正目的のみでCV挿入までするのは少しやりすぎかなと個人的に思います(もちろんだめでは無いですが)。

CVCを入れざるを得ないとすれば、脱水が無くて心機能が悪く、多量の輸液負荷に耐えられない状況での低カリウム血症ですが、非常に稀です。

救急外来で補正を開始しなければならないような低カリウム血症は、

  • 甲状腺機能亢進による周期性四肢麻痺(若年者が多く心機能良い)
  • アルコール利用障害に伴う低栄養、低カリウム(脱水伴うことが多い)

のことがほとんどなので、輸液負荷に耐えられないという状況にはあまり遭遇しません。

ちなみに内服に関しては意識障害がある場合や嚥下に不安がある場合はNGチューブを入れて投与するという方法もあります。

内服の弱点は下痢などで吸収障害がある場合は効果が期待できないことです。

カリウムの濃度・投与速度

静脈から投与する場合、KCLの添付文書によれば投与速度は一般的に「20mEq/hrを超えないように」となっています。

また輸液濃度は「40mEq/Lを超えないように」と記載されています。

この添付文書に記載された濃度・速度で最大量投与するのであれば

  • 生食500ml
  • KCL20mEq

という輸液を作って1時間で投与することが可能です。

ただし、施設によっては最大濃度は20mEq/Lまでという院内の取り決めがある場合もあるので、必ず施設のルールを確認してください。

up to dateでは致死的な状況(おそらく心室性不整脈がすでに出ているような状況)では最大40mEq/hまで投与可能である、との記載があります。

もちろん心室性不整脈が出ている状況ではやむを得ませんが、そうでなければまずは20mEq/hで補正を開始し、可能であれば内服も追加するという方針が無難です。

また、中心静脈から投与するのであればさらに濃い濃度にすることが可能です。

up to dateには「中心静脈からは生食100mlにKCL40mEqを混注」と記載がありますが、個人的には生食100mlにKCL20mEq混注くらいが無難な気がします。

マグネシウムの補充

アルコール利用障害や利尿薬などが関連した低カリウム血症では低マグネシウム症が合併することが多いです。

低マグネシウム症そのものが低カリウム血症を悪化させるだけでなく、心室性不整脈のリスクにもなります。

なのでマグネシウムを投与することで血清カリウム値の上昇も期待できるだけでなく不整脈の予防にもつながります。

そもそも低カリウム血症の治療を急ぐ理由は心室性不整脈を起こさないためでもあるので、マグネシウムを早期から補充する意義は大きいです。

ポイントは血清マグネシウム値は必ずしも体内のマグネシウム量を反映しないということです。

体内の総マグネシウムに占める血清マグネシウムの割合はわずか1%です。

なので血清マグネシウム正常でもマグネシウム欠乏という状況があり得ます(Normomagnesemic magnesium depletion

なので血清マグネシウム正常範囲であっても病歴などからマグネシウム欠乏の可能性が高ければマグネシウムを補充すべきなのです。

代謝性アルカローシスの補正

pHとカリウムの関係について簡単に確認しておきます。

KイオンとHイオンは細胞内外を逆向きに移動します(Na/H交換輸送体を介して)。

つまりpHが上がれば(アルカレミアになれば)Kは下がり、pHが下がれば(アシデミアになれば)Kは上がります。

pHが0.1変化するとKは約0.5mEq/L変化します。

低カリウム血症がある場合は高確率で代謝性アルカローシスが存在します(原因か結果かは場合によります)

例外としてDKAの治療経過に伴う低カリウム血症の場合は、代謝性アシドーシスを伴っているので考え方は少し変わります。

DKAの治療でも大量に補液することになりますが、生食を大量に輸液し続けるとCL負荷による代謝性アシドーシスとなってしまうことがあるため注意が必要です。

DKAの一般的な治療については別記事、【3分で読める】DKAの初期治療|救急外来での対応をシンプルに解説、も参考にしてください。

低カリウム血症の治療ざっくりまとめ

  • KCLを末梢点滴から補充、内服可能であれば内服での補充も検討
  • 生食輸液で代謝性アルカローシスや脱水を補正
  • 低マグネシウム症を疑えばマグネシウムも補充

筆者のオススメの補正メニューは

  • 生食500ml
  • KCL10mEq
  • 硫酸マグネシウム20mEq

を1時間で投与(必ず輸液ポンプ使用して)です。

早めに補正したい場合は末梢ルートを2本確保して上記を2本同時に投与します(マグネシウムは適宜調整)。

ちなみにその時に可能であれば末梢を同側上肢に2本確保する用にしておくと、反対側の上肢を採血用に残せるのでオススメです。

さらに内服可能であれば塩化カリウム40mEq程度を内服してもらいます。

【3分で読める】DKAの初期治療|救急外来での対応をシンプルに解説

2020年2月20日