アニオンギャップの正常値12±2、が正しくない理由

研修医・若手医師

血液ガスの解釈でアニオンギャップ(AG)の計算は大事ですよね。

AGが開大していればAG開大性代謝性アシドーシスとして、DKAや乳酸アシドーシスなど重篤な疾患の可能性があります。

大学の講義ではAGの正常値は12±2と教わるはずですし、我らが日本救急医学会のページでも“アニオンギャップの正常値は12±2”と記載されています(2020年2月現在)。

ですが、実際の臨床で血液ガスを見たときにAGが8とか6とか一桁のこともけっこうありませんか?

逆に、どう考えてもAG開大性代謝性アシドーシスがありそうな状況なのにAGが12とか14 とか12±2の範囲に収まっていることもあったり・・・

そもそも「±2って何?」って思いますよね、幅が広すぎて困りませんか?

アニオンギャップの正常値をどう考えたらいいのか、についてup to dateの記載に触れつつお話していきます。

ちなみに学生さんは国家試験では(2020年現在では)12±2で問題無いです。

ですが学生さんでもこの記事を読んでいただければ、アニオンギャップについての理解がより深まります。

まずは血液ガスの読み方の基本が知りたい!という方は、血液ガスの読み方の基本|酸塩基平衡の解釈【初心者向け】、の記事を先に読んでください。

目次

クロールイオン(Cl)の測定精度が向上していることがアニオンギャップに影響

up to dateの“Approach to the adult with metabolic acidosis”のアニオンギャップの正常値に関する記述を紹介します。

アニオンギャップの正常値は、
かつては7−13mEq/Lだった。しかしここ数十年の間にClイオンの解析方法が変化し、Clイオンの正常値が上昇した。それに伴ってアニオンギャップの正常値も変化し、今の正常値は3-10mEq/L(平均6mEq/L)となっている。

Clイオンの正常値が上昇した(測定精度が上昇した)ことによりAGの正常値が低下している、ということです。

なんのこっちゃ・・・という方に基本の確認をしつつ説明していきます。

アニオンギャップ=Na−(Cl+HCO3

図で説明するとこうなります。

もともとのアニオンギャップの中に測定されていないClイオンが含まれていたけれど、それがClイオンとして測定されるようになったので、その分アニオンギャップの正常値が押し下げられた、ということです。

施設(測定機器)ごとのアニオンギャップの正常値の確認が必要

up to dateの記載には続きがあります。

それぞれの施設(測定機器)での正常値を知っておくことが重要である。例えば正常値が4mEq/Lである施設で測定値が12mEq/Lであれば8mEq/Lアニオンギャップが上昇していることになる。いっぽうで正常値が12mEq/Lの施設であれば、アニオンギャップは正常となる。

測定機器が進歩した、と言っても施設によっては古い機械を使っていることもありますので差があります。

なので自分の施設のいつも使っている血ガス測定器に設定されているAGの正常値を知っておく必要があります。

ちなみに僕がこれまで勤務してきた施設では、「AGの正常値8-10mEq/L」というところと「AG正常値10-12mEq/L」という施設もありました。

みなさんも自施設のAGの正常値を確認してみてください。

臨床工学技士さんに聞けば教えてくれるはずです。

AGが正常値よりもマイナスになる病態

測定機器の影響によるアニオンギャップの正常値が下がるお話をしてきましたが、病態によってアニオンギャップが下がる場合もあります。

低アルブミン血症:アルブミン値による補正が必要

一番有名かつよく経験する病態が低アルブミン血症です。

アルブミンは血中ではマイナスに帯電しており、アニオンギャップを構成する要素の一つです。

ゆえに血清アルブミン値が正常よりも低くなることでアニオンギャップの値も下がるのです。

一般にアルブミンが1.0低下するごとにAGは2.5低下すると言われています。

救急外来を受診する患者さんでは、低栄養、肝硬変、血管透過性亢進など様々な理由でアルブミンが低いことがあります。

救急外来で血液ガスを測定する場合はアルブミンも合わせて提出するようにしましょう(呼吸状態の評価のためだけに血ガス測定する場合は不要)。

また注意すべきこととして、血液ガスの結果はすぐ出るのですが、その時にはアルブミンの値がまだわかっていないはずです。

なので血液ガスの結果でAGが一見正常範囲であっても、血清アルブミン値の結果と合わせて評価する必要があります。

陽イオンが上昇する病態

高カリウム血症やリチウム中毒など、陽イオンが増大する病態はAGを下げることになります。

リチウムイオン濃度の結果がすぐに出ない施設(外注検査)も多いかと思いますが、AGが低下していることが間接的にリチウム中毒の存在を示唆する、という使い方もあります。

まとめ

アニオンギャップの値は施設や病態によって大きく変わる、というお話をしました。

少なくともアニオンギャップ12mEq/Lという値を見たら、AG開大性代謝性アシドーシスを念頭におく必要があるかもしれません。

まずは自施設のAGの正常値を確認してみましょう。

特に最近血ガスの機械が新しくなった、という場合はAGの正常値が今までよりも下がっているかもしれません。

医学生は国家試験では12± 2で今のところは大丈夫です。

血液ガスの読み方の基本|酸塩基平衡の解釈【初心者向け】

2020年2月26日