死亡診断書か死体検案書かの違い|救急外来で死亡確認した症例の考え方

研修医・若手医師

救急外来でCPA症例の診療していて、残念ながら死亡確認となった後

「かかりつけじゃない患者さんで死亡診断書書いていいんだっけ?」

「死因がわからないけど警察に連絡したほうがいいのかな?」

という疑問が浮かんだ事はないでしょうか?

実はこれ今だに救急医や法医学者の間でも意見が分かれているところなんです

「厚生労働省の死亡診断書(検案書)記入マニュアルを読んだけど、結局どうしたらいいかわからない!」という方に向けて現状を解説していきます

一般論を述べた後に僕たちはこうしていますというお話もします

目次

かかりつけの症例でなくても死亡診断書の発行は可能

最初に結論から言うと、

極論すれば救急外来で死亡確認した場合に担当医の判断で死亡診断書と死体検案書のどちらも作成可能です。

そしてかかりつけの症例でなくても死亡診断書の発行は可能です。

なので、今とりあえず救急外来で死亡確認したけど診断書か検案書か迷ってる、と言う人は診断書を書いてかまいません。

とはいえ「いやいや厚労省のマニュアルにはそうは書いてないぞ」と思われるかと思いますので、そこについてここから説明していきます。

厚生労働省が発行している死亡診断書(検案書)記入マニュアルには死亡診断書と死体検案書の使い分けについて以下のように明記されています

『医師は、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には「死亡診断書」を、それ以外の場合には「死体検案書」を交付してください。』

この文言を素直に解釈すると、「かかりつけでない症例が、心肺停止で救急搬送され死亡確認した場合」は死体検案書の発行となりそうです。

ただし、「生前に診療していた傷病」の解釈次第ではかかりつけの症例でなくでも死亡診断書の発行が可能なのです。

先ほどまで蘇生処置を行っていた「心肺停止」という病態が「生前に診療していた傷病だ、という解釈が可能なのです。

ここだけ読むと、ややこじつけに感じるかもしれません。

ですが第113回医師国家試験の問題を見ると厚労省もこの解釈を支持していることが推測できます。

試験問題では、かかりつけでない症例が来院時心肺停止で搬送され、心拍再開なく死亡確認となった症例で、搬入された病院で蘇生処置を行った医師が死亡診断書を発行することを前提とした問題が出されています。

要はかかりつけでなくとも、生前に(死亡確認前に)診療に関わった医師であれば死亡診断書を書くことができる、と言えるということです。

なので救急外来でCPA症例の死亡確認をした後に死亡診断書を作成することは問題無い、という結論になります。

実際の医師国家試験問題はこちら:第113回医師国家試験113−B-45

救急外来で死体検案書を作成する時の解釈

では救急外来で死亡確認した場合は全て死亡診断書でなければならないかと言うと、そうでは無く死体検案書の作成も可能です。

救急外来で死亡確認して死体検案書を書くことに違和感や抵抗を感じている医師が一定数いるようです。

「心肺停止は死亡確認するまでは死体では無いので、死体検案書の作成はおかしい」

「もし搬入時に死体なのであれば、救急隊が死体を搬送したことになるし保険診療を行うことと矛盾が生じる」

というような懸念があるようなのです。

ですが、救急外来で蘇生行為を行なったとしても死体検案書を作成する事は何ら問題ありません。

そもそも死体検案書は“死亡確認後に死体を検案して”死因を推定し発行するものです。

死体検案書を作成したからといって病院搬入時に死体だとはならないわけです。

“死亡確認後のご遺体は死体である”ということは誰も異論はないはずです。

心肺停止としてまだ死体とは判断していない症例に蘇生処置を行い、結果的に心拍再開なく死亡確認したが、死因がわからないので、死亡確認後の死体を検案して死因を推定する。

矛盾のない解釈ですし、厚労省のマニュアルの文言からするとむしろ自然です。

死亡確認後に病歴や体表の観察、検査結果などを振り返って、死因はなんだろうと思いを巡らせているのが“死体検案”です。

“死体検案”というと特別な作業をしているような誤解をされることがありますが、あくまでも病歴と体表の観察により死因を推定することですので、日々行なっていることそのものです。

診断書なのか検案書なのか少し混乱してきた方もいるかもしれませんが、要は担当医の解釈の問題なのです。

厚労省がより詳細な使い分けについてマニュアルの記載を変えない限りは、死亡診断書を発行するか死体検案書を発行するかは、診療に当たった医師が「生前診療していた傷病」の範囲をどう考えるかの解釈次第でどちらも選択可能ということです。

私たちは死亡診断書と死体検案書の使い分けをどうしているか

では実際私たちが死亡診断書と死体検案書をどう使い分けているかというお話をします。

蘇生処置中に得られた病歴や検査などから死因がある程度推定できた場合に死亡診断書死因が全くわからない状態であれば死体検案書としています

例えば、胸痛を訴えて倒れた方が救急隊接触時にCPAであり搬送。エコーで心のう液貯留があり、大動脈解離からの心タンポナーデを疑うが心拍再開せず(CTは試行できず)という時は死亡診断書を作成します。

一方、昨日まで元気だったが高齢者が、朝になって起きてこないため救急要請したらCPAであり、検査でもCPAの原因はっきりせず死亡確認した、という場合は検案書を作成します。

「診断できている」の線引きをどうするかというのは迷う時もありますが、説明したきた通りどちらかでなくてはならないという厳密な定義はなされていないため、あくまでも「担当医のその時の判断」で診断書か検案書かを決めています。

異状死として警察に届けるかどうかの判断

救急外来で死亡確認した後のもうひとつ悩ましい事として、異状死として警察に届けるべきかどうか?です

まず勘違いしやすいこととして、死体検案書を作成するからという理由で警察に連絡する必要はありません

厚生労働省のマニュアルには

交付すべき書類が「死亡診断書」であるか「死体検案書」であるかを問わず、異状を認める場合には、所轄警察署に届け出てください。その際は、捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で、死亡診断書もしくは死体検案書を交付してください。

とありますので、「警察に連絡するかどうか」と「診断書か検案書か」は別の軸で考えましょうということです、

厚生労働省の死亡診断書マニュアルでは、異状死の定義は法医学会が作成した異状死ガイドラインに従うように記載があったのですが、平成27年度版より、この記載は削除されています。

これは厚生労働省の異状死に対する考えが変わったことを表していると推測されますが、現時点では厚生労働省が求める異状死の定義は明確には定まっていません。

では実際にはどうすべきか

警察に届け出る目的は事件性の有無を判断することであり、死因不明であっても外因死が疑われなければ届け出る必要はないはずです。

ちなみに外因死であっても、事件性が無いことが明らかな場合は警察に届け出る必要はないのですが、特に経験が少ない医師はそこの線引きで迷うならば外因死は警察に連絡するのが無難です。

監察医制度がある地域かどうかで事情が異なる

さらにややこしい話ですが、そもそも監察医制度がある地域ではその他の地域とは事情が異なります

東京、大阪、神戸など一部の地域では監察医が死因を特定するための行政解剖が実施されます。

なので死因不明で他の地域ならば検案書を作成するような状況であれば、監察医が行政解剖をして検案書を作成することになります。

なので監察医制度がある地域では、死体検案書を救急外来で書くことは少ないかもしれません。

まとめ

  • 救急外来に心肺停止で搬送されて死亡確認した患者さんで死亡診断書を発行するのは問題ない!そして厚労省もそれをおそらく認めている!
  • だけど、死因が全然わからなくて、死亡確認後にあらためて家族とかに病歴を確認したり体表の観察をして死因を推測するのはもはや死体検案だから死体検案書発行するのも問題ない!
  • 警察に届け出るかどうかの基本は事件性を疑った時!迷ったら届け出るのが無難!

死亡診断書の死因をどうしたらいいか悩ましい・・・という方は、死亡診断書(検案書)の死因がわからない時の考え方、の記事も参考にしてください。

死亡診断書(検案書)の死因がわからない時の考え方

2020年2月18日