死亡診断書(検案書)の死因がわからない時の考え方

研修医・若手医師

心肺停止の患者さんが救急外来に搬送され、残念ながら心拍再開せずに死亡確認となった時、

死亡診断書(検案書)の病名をどうするか悩んだことはありませんか?

厚生労働省のマニュアルはあるものの死因をどうするかは診療担当医に委ねられています。

迷った時の考え方について救急医の立場から解説していきます。

目次

死亡診断書(検案書)の死因がわからない(確定できない)時の考え方

来院時心肺停止で心拍再開せずに死亡確認となった、という時はCTは撮影できていないはずです。

なので多く場合は死因は推定するしかありません。

死因は病歴および外表の観察から診療担当医の判断(推定)で記載して問題ありません。

そう言われても判断に迷う・・・という場合には以下の3つの考え方を参考にしてください(あくまでも参考です)。

  1. 死因となりうる持病(悪性腫瘍など)があれば、それを死因とする。
  2. 高齢者が徐々に体調を崩してきていた場合は「老衰」とする。
  3. 元々元気な人が突然心肺停止となった場合は「心疾患」「循環器疾患」の病名も可能。

3.についての補足です。「心疾患」というのはあくまでも一つの例です。

原因がよくわからない時の「心不全」は適切ではない、とされていますが、「心疾患」や「循環器疾患」は問題ありません。

もともと元気だった人が突然体調不良を訴えてそのまま心肺停止になったという時は、心筋梗塞、致死的不整脈、大動脈解離などが想定されますよね。

それらを総称して「心疾患」とすることは可能です。

もちろん脳卒中なども実際にはあると思います。脳卒中が疑われる場合「頭蓋内疾患」などとすることも可能です。

ですが心拍再開していなければ、神経学的所見もとれず、頭部CTもせずに脳卒中という診断はほぼ不可能です。

なのであえて脳卒中という根拠の乏しい診断名にせずに「心疾患」というある程度幅の広い診断名を記載することは妥当かと思っています。

くりかえしになりますが、死因については担当医の判断が最も優先されるので、自分の考えたものを記載するが正解です。

死因の判断のためにAiは必要か

結論から言うと、死因の推定のためにAiは不要です。

死因の推定はあくまでも病歴および外表の観察によって行うものです。

なので「死因がはっきりしないから」と言う理由だけでのAiは不要です。

例外としてAiを行った方がいい場合は次の2つです

  1. 医療事故関連の死亡が疑われる場合
  2. 小児の心肺停止

医療事故関連の死亡が疑われる場合

1.医療事故関連の死亡の場合、では死因が重要になります。

医療行為に起因した死亡なのか、それとも入院の契機となった疾患による死亡なのかを明らかにする必要があるからです。

本来は病理解剖を行うべきですが、ご家族の同意が得られない場合も考えられます。

その場合にAiを行うことで解剖には劣りますが、客観的な情報を増やすことができます。

これは必ずしも病院が訴訟で有利になる、不利になるという話ではありません(その側面も否定しませんが)。

医療事故関連の死亡では、患者さん家族、そして関わった医療職も精神的にダメージを受けます。

今回の死亡が、そもそも医療事故に関連しているのか、防ぐことは可能だったかなどを検討して、再発防止策を講じることは、関わった人たちの心のダメージを癒すことにもつながります。

解剖もAiもしなかったという状況では情報が少なすぎて感情的な議論になってしまうリスクがあります。

建設的な議論を行っていくためにもAiという方法で客観的な情報を残しておきましょう。

小児の心肺停止

2. 小児の心肺停止は経験する頻度は少ないとは思いますが、Aiを行った方が良いと思います。

小児の場合、虐待の可能性も考えなければならない場合があるものの、家族の心情を考えると解剖も勧めづらいからです。

もちろん虐待を強く疑う場合は警察を介して司法解剖へと進むことになりますが、明らかな虐待とは言えない状況やグレーな時などはAiの情報が参考になる場合があります。

また死因がわかることによって家族が患児の死を受け入れるプロセスにも役立つ可能性があるかと個人的に思っています。

ここまでをまとめると

Aiは基本不要。例外として医療事故関連の死亡、小児の心肺停止ではAiを検討するのが良いでしょう。

死亡診断書か死体検案書か

そもそも死亡診断書か死体検案書か、という問題もあります。

厚生労働省のマニュアルをそのまま解釈すると、もともと通院していた病気で亡くなった場合は死亡診断書、死因がわからない(推定する)ような場合は死体検案書となります。

一方で救急外来で書くのは全て死亡診断書で良い、と考える人たちもいます。

このあたりは非常に議論があるところで、実際のところは同じ症例でも担当する医師によって変わる、というのが現状です。

詳細は、意外にややこしい!死亡診断書と死体検案書の違い、の記事を参照してください。

ここではシンプルに、死因が分かっているならば死亡診断書、推定する(検案する)のであれば死体検案書で良い、とさせていただきます。

死亡診断書の記載は後日訂正も可能

死亡診断書(検案書)は後日記載を訂正することも可能です。

もちろん事実と違う内容への変更は厳禁です。

後から情報が増えた結果、死因が変わる、外因死から病死へ変わるなどは、後日でも訂正は可能です。

より事実に近い、正確な内容への変更は後日でも可能なので、救急外来では、その時に得られている情報から判断した記載で問題ありません(それしかできませんよね)。

まとめ

死亡診断書の死因がわからない時の考えかたについて解説しました。

死因が確定できない場合でも、担当医の推測で死亡診断書(検案書)の病名を記載することは問題ありません。

診療担当医として自信を持って診断書(検案書)を作成しましょう。