「診断エラーを回避したい」というのは救急外来で働く全ての人が思うことです。
この記事は、診断エラーにつながる3つのバイアスについて解説し、診断エラーが起きやすい状況を認識することで、診断エラーを減らすことが目的です。
目次
診断エラーにつながる3つのバイアス
診断エラーにつながりやすいバイアスとして
- ヒューリスティクス
- 確証バイアス
- アンカリング効果
があります。
それぞれを解説していきます。
ヒューリスティクス
ヒューリスティクスとは思考のショートカットを意味します。
その中で診断エラーにつながりやすいのが、代表性ヒューリスティクスと利用可能性ヒューリスティクス(バイアス)が
代表性ヒューリスティクス
典型的・代表的(教科書的)な病歴・症状の疾患に絞ってしまうこと。
例:「突然の激しい腰痛」で尿路結石以外に鑑別疾患を挙げない
利用可能性ヒューリスティクス
利用可能性バイアス(アベイラビリティバイアス)とも言います。
よく見る病気、最近経験した印象的な症例から疾患の候補を想起してしまうことを指します
例:「この症状なら最近〇〇って病気を経験したし、今回もそうかもしれない」
確証バイアス
自分が想起している病気に当てはまる情報(病歴・身体所見)だけに注目し、それに合致しない情報を無視してしまう。または自分の仮説に合うように解釈してしまう。
例:過換気で受診した患者さんが、呼吸すると胸が痛い、と言うが「あれだけ過換気だったし、そのせいかな」と考えてしまう。
→実際は気胸があった。
アンカリング効果
すでにつけられた診断名などの限られた情報を重視して、それ以外の情報を軽視する。
例:昨日救急外来を受診した時に急性胃腸炎と診断されている、と言う理由で、診断を見直さない。
「急性胃腸炎」と診断するときは必ず一歩立ち止って考える
では実際に急性胃腸炎の例をみながら、どんなバイアスが起こり得るか考えていきます。
来院当日朝からの腹痛・下痢があり近医を受診。急性胃腸炎と診断され、経口摂取困難であり入院目的に紹介受診
結論から言うと、この人は虫垂炎でした。
腹痛・下痢というキーワードから急性胃腸炎という鑑別しか想起しない、とすれば代表性ヒューリスティクスです。
実際に患者さんをみたものの、とても強い腹痛を訴えているがお腹の診察をせずに鎮痛薬を使うだけで終わってしまう、となれば自分の仮説に合う情報しか集めないという確証バイアスです。
前医での急性胃腸炎という診断を鵜呑みにして、他の診断を考えない、となるとアンカリング効果ということになります、
毎年研修医の先生を指導していく中で、「“急性胃腸炎”と診断するときは、一歩立ち止まって考えよう」、ということを必ずお話しています。
それは急性胃腸炎という“病名”が、いろいろなバイアスの影響を受けた結果、他の重要な疾患を見逃すことになりやすい病名だからです。
診断エラーを回避するためのコツ
診断エラーの難しいところは、自分がバイアスに影響されていることを自分で気づくことが難しいことです。
ですが、「こういうバイアスのパターンがある」、ということを知っていることで、気づける確率が増えます。
自分をもう1人の自分が監督するイメージ(メタ視点)で、一歩立ち止まることが重要です。
胃腸炎の例のように「急性胃腸炎と診断するときはバイアスにおちいってないか自分に問いかける」というルールを課すことで、診断エラーが回避できる可能性があります。
まとめ
診断エラーにつながる3つのバイアスについて解説しました。
「こういうバイアスのパターンがある」、と知っているだけでも診断エラーを減らせる可能性があります。
また、実際に診断エラーが起こってしまった場合にも単に「次から気をつけよう」で終わらせずに、どんな思考パターンが原因となったかを明らかにすることで、建設的な議論ができます。
ヒューリスティクスの話をより深く知るためのおすすめの本として、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンの著書「ファストアンドスロー(上)」があります。
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