ランダム化比較試験(RCT)は交絡因子を調整することができる強力な研究デザインです。
ですがRCTにも限界が存在します。
ここでは
という人に向けて、RCTをより深く理解するためにRCTの3つの欠点を解説していきます。
そもそもRCTの利点てなんだっけ?という方は、ランダム化比較試験(RCT)とは|RCTの3つの利点を解説、の記事を先に読んでください。
目次
ランダム化比較試験(RCT)の3つの欠点
ランダム化比較試験(RCT)の欠点は以下の3つです。
- 排除できないバイアスがある
- 長期的な効果を調べにくい
- 実施できない介入がある
一つずつ解説していきます。
RCTでも排除できないバイアスがある
RCTはランダム化によってあらゆる交絡因子を調整することができるのが最大の利点でした。
ただしこれはあくまでも交絡因子という一つのバイアスを調整できるというだけであって全てのバイアスが無くなるわけではありません。
RCTで排除できないバイアスの代表として以下の2つを解説していきます。
- 選択バイアス
- 出版バイアス
選択バイアス
研究に参加する患者さんを選ぶ過程で発生するバイアスです。
例えばある一つの病院でRCTを行なった場合、その施設に集まる患者群という特性が生まれます。
例えば一般外来を受診した患者さんを対象した研究だと、救急外来を受診するような状態の悪い患者さんがそもそも含まれない、ということが生じ得ます。
また、研究に参加するためには当然患者さんの同意が不可欠ですが、研究に参加するという判断をする患者さんは健康に対する意識が高いという可能性があります。
RCTに参加している患者さんはある種「選ばれし者」である可能性があるため、私たちが本当に知りたい「リアルワールド」を反映していない場合があるのです。
出版バイアス:publication bias
RCTの結果で有意差が出た研究のほうが論文になりやすい(出版されやすい)、という偏りのことです。
研究やってみたけど、結果がイマイチだったからお蔵入りになる、ということです。
特に薬の効果を調べるRCTで製薬会社などが関与しているときに起こりやすいバイアスとされています。
複数のRCTを解析するメタアナリシスは出版バイアスの影響を受けやすいとされます。
長期的な効果を調べにくい
RCTはあたりまえですが前向きに行う試験です。
なので調査期間が限られます。
例えば調査期間を3年としても、データの解析から論文作成まで含めると、論文が発表されるまでに4-5年かかります。
となると、10年後の効果や20年後の効果を知りたい、となると結果がわかるのは10年後、20年後となってしまいます。
あなたが研究担当者だとして、10年後に結果がわかる研究を計画するでしょうか?
仮にあなた1人がやる気になったとしても、研究にかかる費用、患者さんの協力などの面などで実現可能性は厳しいかもしれません。
RCTで調べることができる治療の結果は長くても数年程度が現実的と考えてよいでしょう。
実施できない介入がある
主に倫理的な理由から調べることができない介入があります。
すでに後ろ向き研究で害がある可能性が示唆されている介入、逆に介入しないことが害である可能性が高いもの、などはRCTで前向きに検証することは困難です。
例えば「タバコによる発がんリスク」は、RCTで証明されているわけではありません。
ですが多数の後ろ向きの疫学研究で発がん性が示唆されており、これを前向きにやることは倫理的に許されません。
緊急性の高い病態に対するRCTも実施しにくい傾向があります。
極端な例では、救急外来で心肺停止に対する介入です。
心肺停止で搬送された患者さんの家族に臨床試験の説明をして同意を得る、そしてランダム化して・・・というのは非現実的です。
(臨床試験の説明している場合じゃない!)って医師も患者さん家族も思うはずです。
なので少なくとも、臨床試験の説明の時間をとれる程度には落ち着いている病態がRCTに向いています。
まとめ
RCTの3つの欠点について解説しました。おさらいすると
- 排除できないバイアスがある
- 長期的な効果を調べにくい
- 実施できない介入がある
です。
RCTは強力な研究デザインですが、読むときにはこれらの限界を知っておくことが重要です。
また、文献を検索する際にRCTが見つからなかったとき、
「RCTがまだされていないのではなくて、そもそもデザイン的に無理かも」という視点を持てると、文献検索の精度が劇的に高まります。