上部消化管出血を疑って消化器内科にコンサルトした時に
「胃管入れて洗ってみて」
と言われたことってありませんか?
確かに胃を洗って血が返ってきたら診断に役立つのかもしれないけど、これって本当に必要なの?
という疑問についてup to dateのApproach to acute upper gastrointestinal bleeding in adultsより情報を簡単にまとめました。
目次
上部消化管出血に胃管を入れることで臨床的アウトカムは改善するか?
まず結論から述べると
上部消化管出血の症例で必ず胃管挿入すべきとは言えません。
少なくともこれまでの研究(2020年4月時点)では、胃管挿入による臨床的アウトカムの改善を示せたものが無いためです。
研究の一例として、632人の上部消化管出血で入院した症例を対象にした後ろ向き観察研究(プロペンシティスコアマッチング)があります(1)。
胃洗浄群では内視鏡の処置時間が短縮したものの、死亡率、入院期間、輸血量などについては差がありませんでした。
胃洗浄することで観察が容易になったことで内視鏡の時間が短縮した可能性があるようですが、それが臨床的なアウトカム改善にはつながらなかったのです。
ただし、この研究は死亡率などの臨床的アウトカムについて評価したものです。
胃管を入れることで上部消化管出血の診断に使えるか?という疑問に関した研究も紹介します。
吐血を伴わない上部消化管出血疑い症例での胃管挿入は診断に寄与するか?
220人の吐血を伴わない上部消化管出血に対して胃管を入れて吸引した結果の診断制度について研究したものです(2)。
結果はとしては、血液が引ける(陽性)であれば+LR11とかなり有用であるものの、陰性であれば−LR0.6と今ひとつでした。
胃管を入れて血液が引けないからといって上部消化管出血の除外には使えなさそうです。
これは十二指腸からの出血である場合に胃管から血液が引けない場合があることも一つの理由のようです。
まとめ
上部消化管出血の症例に胃管を挿入すべきか、について解説しました。
臨床的アウトカムを改善しない、血液が引けなくても除外はできない、という2点を理解した上で、少しでも情報を増やしたい、内視鏡の処置時間を短くしたい、という目的で行うのであれば胃管挿入は選択肢として残るかもしれません。
少なくともルーチンで行うべき事ではない、という認識で問題ないはずです。
【文献】
- Huang ES, Karsan S, Kanwal F, Singh I, Makhani M, Spiegel BM. Impact of nasogastric lavage on outcomes in acute GI bleeding. Gastrointest Endosc. 2011;74(5):971–980. doi:10.1016/j.gie.2011.04.045
- Witting MD, Magder L, Heins AE, Mattu A, Granja CA, Baumgarten M. Usefulness and validity of diagnostic nasogastric aspiration in patients without hematemesis. Ann Emerg Med. 2004;43(4):525–532. doi:10.1016/j.annemergmed.2003.09.002