“いかにも過換気症候群”という印象を持った時でも、何も考えずに経過観察としてしまうのは危険です。
ここでは過換気症候群を疑った時に必ず鑑別すべき2つの病態について解説します。
エビデンス云々というよりは、救急医としての経験から「こういうこともあるよ」というメッセージが中心です。
目次
過換気症候群かもと思ったら考えるべき2つの病態
過換気症候群では心臓や肺に疾患が無いにも関わらず頻呼吸となります。
一般的には不安やストレスが誘因となる事がほとんどですが次の2つを除外することが重要です。
- 代謝性アシドーシスの呼吸性代償
- 激しい痛みが誘因となった過換気
代謝性アシドーシスの呼吸性代償としての過換気
代謝性アシドーシスがあると、その呼吸性代償として過換気となります。
DKAで有名なクスマウル大呼吸は、まさにこの代償のための速く深い呼吸のことです。
過換気症候群を疑ったら、必ず代謝性アシドーシスの呼吸性代償を除外することが重要になります。
代謝性アシドーシスで特に重要な病態はAG開大性代謝性アシドーシスであり、KSMAULの頭文字で覚えます。
- K:Ketoacidosis
- S:Salytilic-acid/Sepsis
- M:Metanol
- A:Aspirin/Alcohol
- U:Uremia
- L:Lactic-acidosis
これらを除外するために過換気を疑ったら血液ガスを測定することおすすめします。
酸塩基平衡を評価したいので、静脈血液ガスでも問題ありません。
そこでpH、HCO3、AG、血糖、乳酸値などの情報が得られるので代謝性アシドーシスの有無は確認できます。
血液ガスの読み方がまだ自信が無いという人は、血液ガスの読み方の基本|酸塩基平衡の解釈【初心者向け】、の記事もよければ読んでみてください。
私が経験した症例を紹介します。
呼吸苦で搬送されたがSpO2100%なので過換気症候群の疑いとして救急外来で経過観察となった。
しばらく様子を見ても改善ないため、血液検査行うと著名な代謝性アシドーシスあり、最終的にメタノール中毒が判明した。
やや極端な例かもしれませんが、代謝性アシドーシスの代償としての過換気の可能性は常に考えておきましょう。
激しい痛みが誘因となった過換気
過換気症候群は不安やストレスが誘因となりますが、激しい痛みが誘因となった場合にはその痛みの原因を考える必要があります。
例えばこんな症例もあります。
過換気で救急搬送されたものの、呼吸数以外のバイタルは落ち着いておりしばらく経過観察されていた。
血圧が下がってきたため、再度評価するとエコーで腹水あり。
付き添いの友人に話を聞くと最初にお腹を痛がり、その後から呼吸が速くなったと。
妊娠反応陽性とわかり、子宮外妊娠の疑いとして産婦人科コンサルトし緊急手術へ
これ以外にも、若い女性が胸痛を契機に発症した呼吸苦で搬送されたものの、来院時は過換気の症状が目立っており、胸痛の精査をされないまま帰宅し、後から気胸が見つかった症例を経験したことがあります。
過換気が起こるきっかけとして、痛みがあればそれに対するアセスメントが必須である、ということを覚えておいてください。
まとめ
過換気症候群と診断する時の鑑別について注意すべき2つの病態を解説しました。
代謝性アシドーシスの代償としての頻呼吸、痛みをきっかけとした過換気の可能性を考えるようにしましょう。
頻度は高くないかもしれませんが、「どうせまたいつもの過換気でしょ」と思った時こそこの記事の内容を思い出してください。