初期研修中に必ずやってくる試練がJournal Clubです。
もちろんはじめは上級医が指導してくれるはずですが、上級医もつきっきりで指導してくれるほどの時間はなかったりします。
「まずは一度自分で読んでみよう」となるのが普通です。
ですが、慣れない英文を最初から最後までいきなり読むのは苦痛です。
歯を食いしばって読んだはずなのに「結局よくわからなかった」、なんてことになりかねません。
ここでは
「初めてJournal Clubで発表することになったけど、どうしたらよいか全くわからない。」
「何回かJournal Clubで発表したことあるけど、指導医に言われるままになんとなく終わった」
という人のために、医学論文がどのような構造になっていて、どの部分をスライドに抜き出して発表すれば良いかをわかりやすく説明します。
目次
初心者は選ぶ論文は4大ジャーナルのRCTにしよう
論文の読み方の前に、論文の選び方ですが、もし自由に選べるならば悪いことは言いません、4大ジャーナル(NEJM、Lancet、JAMA、BMJ)のRCTにしましょう。
なぜメジャー雑誌のRCTにするのが良いか、というと理由は2つです。
- RCTは論文の構造がシンプル
- メジャー雑誌に載る時点でツッコミどころが少ない(無いわけではない)
詳細は省きますが、一般的に後方視的な観察研究はバイアスがたくさん入ります。そのバイアスをなんとか少なくするために統計学的にややこしい手法が用いられます(多変量解析など)。
一方RCTは、ランダム化という方法でバイアスを減らしているので統計手法はシンプルになります(基本的に単変量解析)。
なので初心者は統計学的な知識も少ないので、バイアスだらけで複雑な統計手法やツッコミどころ満載の論文は避けたほうが無難です。
医学論文の読み方①Introduction:3つの要素を把握する
さて、興味がある論文を見つけることができたらIntroductionを読んでみましょう。
Introductionのパラグラフ構造はほぼ決まっています。
- すでにわかっている事が書かれている
- まだわかっていない事が書かれている
- 1と2のギャップを埋めるためのこの研究の目的・意義が書かれている。
の3つの要素が必ず記載されているはずです。
なのでこの流れがわかるようにスライドにまとめていけば良いのです。あまり長々と説明する必要はありません。
1.すでにわかっている事、のところで引用されている文献の情報(著者名、雑誌名、掲載年)も載せましょう。
医学論文の読み方②Method:PICOとサンプルサイズ計算を理解する
論文の構造を示すPICO・PECO
PICOとかPECOとかきいたことあるでしょうか?
論文が誰を対象としたどんな研究なのか?をわかりやすく伝えるための方法です。
- P: Patient(対象症例)
- I: Intervention(介入方法)/E:Exposure(暴露)
- C:Comparison (比較対象)
- O:Outcome (評価すべき結果)
ここを明らかにしておくことで、論文の結果を自分の目の前の患者さんに当てはめることができるかどうかが判断できます。
PにはInclusion criteriaとExclusion criteriaを中心に書くことになります。
IとOはそのまま、何と何を比較したのかがわかるように書きます。
Oではprimary outcomeとsecondary outcomeが何かを書きます。
後述しますがprimary outcomeが最も重要で、それ以外のものについては有意差が出ても出なくても何も言えない可能性が高いです。
PICO・PECOについては、PICO・PECOとは?|EBMの5ステップを理解する、の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
サンプルサイズ計算に言及する
サンプルサイズ計算について必ず記載しましょう。
サンプルサイズ計算とは何か?というと、この研究に必要かつ十分な症例数を計算することです。
サンプルサイズ計算には、4つのパラメータが必要です。
- α
- 1−β(検出力:power)
- ばらつき
- 予想される効果の差
の4つです。
臨床研究の多くはα=0.05、1–β=0.80に設定されます。
このうち特に重要なのは予想される効果の差です。
予想される効果の差とは、介入によって死亡率が〇〇%減る、という予想です。
これはprimary outcomeに対して計算します。
これは過去の似たような研究を参考に設定されることが多いです。
こんなめんどくさい計算しなくても、集められるだけ集めて比べたらいいんじゃない?と思うかもしれませんが、
臨床研究を行う上で、症例数は多すぎても少なすぎてもダメなんです。
症例が多すぎると、小さな差(臨床的には意味の無い差)でも有意差あり(P<0.05)となってしまいます。
逆に症例が少なすぎると、それだけでP値が大きく(P>0.05)なりうるので、本当に差がなかったのか、数が足りなかったかがわからなくなります。
RCTは特に症例を集めるのに膨大な労力がかかります。なので、臨床的に意味のある差を検出することができる最小のサンプルサイズをあらかじめ設定しておく必要があるのです。
なので発表スライドには予想される効果量と、それにより算出されたサンプルサイズを必ず書きましょう。
サンプルサイズについては、サンプルサイズとは?医学論文を読むための統計学的知識を数式無しで解説、の記事でより詳しく解説しているので参考にしてください。
統計解析について
統計解析法(〇〇検定を使ったなど)についてはRCTであれば基本的には純粋な比較(単変量解析)ができるので、詳細に述べる必要性はないかもしれません。
後ろ向き観察研究であれば、統計解析でいかにバイアスを減らす努力をしたかが重要になるので、記載が必要になります。
※RCTでは盲検化についても言及するべきですが、詳細に書かれていない事もあるので、わかる範囲で記載しましょう。
医学論文の読み方③Result:primary outcomeを読み取る
ResultはひたすらFigureとTableを説明するのみです。
だいたいの流れを説明していきます。
Figure.1
Figure.1はstudyフローチャートが来ることが多いです。何人が参加して、何人が除外されたりフォローアップできなかったりで、最終的に何人が残ったかが書いてあります。
ここで最終的に残った人数が、Methodのところで計算したサンプルサイズに近い数になっているかを確認しましょう。
もし一致していなければ理由が必ず書いてあるので、書くようにしましょう。
例えば「途中で明らかに有害事象が多く発生したため早期に終了している」とかです。
Table.1
Table.1にはbaseline characteristics、つまり2群の基礎データが書いてあります。
ここでは2群を比較したP値が記載されており、基本全てP>0.05となっています。
ここで「2群間に差はありませんでした」とコメントして終わってはいけません。
RCTなので2群間に差がないのは当たり前で、なんならそこに書いていないパラメータも全て(未知のものですら)理論上は差がない、というのがRCTの最大の強みです。
ここで言及すべきは2群間の比較ではなく、この患者群の特徴が一般的な患者群と大きく乖離していないか、ということです。
例えば全体として平均年齢がやたら若いとか、特定の疾患の割合が高い、といった場合にこの研究結果がそのまま一般の集団に当てはめられない可能性があります。
なので表の左右を比べるのではなく、表の中と外(一般的な集団と)を比べるのです。
もちろん特に違和感を感じなければ本文中に書いてある説明を書くだけでOKです。
primary outcomeとsecondary outcome
Table.2以降にoutcomeが記載されるているはずですが、最も重要なのはprimary outcomeです。
secondary outcomeはサンプルサイズ計算を行って出てきた結果ではないので、有意差が出ても出なくてもそれは、たまたまそうなった可能性があるからです。
よくsecondary outcomeで「有害事象でも有意差は無かった」というのは多いですが、これは単に有害事象を検出するにはサンプルサイズが足りなかっただけかもしれません。
なので論文の結論についてはprimary outcomeの結果からしか言及することはできません。
secondary outcomeについてはdiscussionでごちゃごちゃ論ずることは可能ですが、結論に影響を与えることはできません。
なのでsecondary outcomeはさらっとコメントする程度で良いでしょう。
医学論文の読み方④Discussion:5つの要素を理解する
DiscussionはIntroductionのようにパラグラフごとの役割がほぼ決まっています。
Discussionのパラグラフ構造の大まかな流れは
- 主結果のまとめ
- 結果の解釈(最も文量が多い)
- 結果の一般化の可能性に言及
- 研究の強みと弱み(limitation)
- 結論
の5つになっていることがほとんです。
発表のスライドも各1枚ずつ計5枚くらいで良いでしょう。
2の結果の解釈の部分が最も文量が長くなるのでしんどいですが、primary outcomeに関する部分を中心にまとめていきましょう。ここだけスライド2枚になってもいいと思います。
4の研究の強み弱みについてはlimitationとして弱みを中心に記載されている事も多いです。
limitationの部分はJournal Clubでは必ず発表の後の議論にあがります。研究の妥当性、つまりこの結果を臨床に反映できるかという判断に関わってくるからです。
limitationの内容について理解できない部分があれば、必ず指導医に発表までに確認しておきましょう。
5はConclusionはそのまま書けばOKです。
が、あえて注意点としては英文の翻訳を忠実に書くということを徹底しましょう。
Aという治療とBという治療で有意差が無かったという結果で、本文には「Aという治療の優位性は示せなかった」、と書いてあるのですが、「AとBは同等だった」とまとめてしまうミスをしがちです。
これは優位性試験の結果だけでは同等性を論ずることはできない、という理由です。ここでは詳しくは述べませんが、結論の単語のニュアンスは実はとても慎重に選ばれています。
繰り返しますがConclusionはそのまま英文に忠実に書きましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか?
RCTの論文の全体の構造を解説しながら、どのようにJournal Clubの発表資料を作っていけばいいかを解説しました。
発表資料を作る、ということは内容を理解することにつながります。ぜひこの記事を参考にJournal Club以外でも興味のある論文を読んでみてください。
慣れてきたら観察研究などでやや難しい統計解析をしている論文にも挑戦していきましょう。