インフルエンザにまつわる3つの誤解:医師の思考過程を共有しながら解説します

患者さん向け

インフルエンザかもしれないし、病院行って、検査してもらって、薬をもらって、診断書も書いてもらわなきゃ・・・

なんて思って病院へ電話で受診の問い合わせをしたら「インフルエンザの検査をするかどうかは医師の判断になります」なんて言われたことありませんか?

それどころか病院によっては「当院ではインフルエンザの検査は原則行いません」なんてはり紙や看板が出ているところもあったりします。

インフルエンザ検査の意味や、薬のこと、診断書を書いてもらえるかなど誤解されやすい点について、医師の思考過程をあえて共有するしつつできるだけわかりやすく救急医が解説します。

「検査をして陰性ならインフルエンザじゃない」という誤解

結論から言うと職場や家族にインフルエンザの人がいるし、自分の症状もインフルエンザっぽいなー、という時にインフルエンザの検査をする意味はほとんどありません。

インフルエンザの検査(迅速検査)はインフルエンザであっても陰性となる事があるんです。

ここまではなんとなく知ってる方も多いかと思いますが、より正確な説明のために、医師が病気を診断する基本プロセスについて詳しく説明します。

インフルエンザに限らず、医師が病気の診断を診断する時は、病気の経過・症状などから判断できる、“その病気らしさ”(検査前確率と呼びます)と検査結果を掛け合わせて診断します。

インフルエンザの検査を含め、世の中の多くの検査は100%白黒つけれるということはありません

検査が陽性だとその病気の確率が〇〇%上がる、陰性だと〇〇%下がると考えます。

そして検査前確率〇〇%で検査が陽性だから、この病気の確率(検査後確率といいます)は〇〇%だ、となるわけです。(単純な足し算ではなく少しややこしい計算式があります)

例えば、インフルエンザの検査前確率が80%の人の検査結果が陰性でも検査後確率は50-60%くらいあります。

こういった考えかたに基づいた結果として

ものすごくインフルエンザらしい(検査前確率が高い)時に検査陰性でもインフルエンザが否定できない(検査後確率が低くならない)という判断になります。

では医師はどんな時にインフルエンザの検査をするか、というと

インフルエンザかどうか今ひとつはっきりしない、という時です

「インフルエンザかどうか今ひとつはっきりしない」を検査前確率30-40%くらいとします。

検査が陽性なら検査後確率80%、検査後確率10%となる(数字はだいたいですが)ような状況であれば、検査の結果次第で判断が大きく変わるからです。

このあたりの事情があるので、冒頭の「インフルエンザの検査をするかは医師の判断になります」や「インフルエンザの検査は当院では原則行いません(医師が必要と判断した時はします)」につながるのです。

※患者さんが検査を希望してはいけないという意味ではありません。検査の必要性を理解した上で判断して欲しいのです。

「患者さんは検査をして欲しがっている」という医師側の誤解

こんな話をしておきながら、僕も10年ほど前の研修医の頃などは、インフルエンザかもしれない患者さんほぼ全員に検査をしていた時期がありました。

理由は、検査が陰性でも否定できないから、と言う説明をしてもそれでも検査をして欲しいという患者さんがそれなりにいるので、説明してもしなくても結局検査するなら、時間がもったいないし全員検査をしてしまおう、と考えたからです。

そして検査が陰性だったときは、検査終了後に「陰性でもインフルエンザの可能性は高いと思います。タミフルも希望があれば処方できますがどうしますか?」と話していました。

ところがそれを続けているうちに、ある鋭い患者さんが気づいたのです。

「え?検査が陽性でも陰性でも診断はインフルエンザで、タミフルも飲むんだったら、さっきの痛い検査、しなくても良かったんじゃないですか?

全くその通りなのです。これまでその説明をしても半数以上の患者さんが結局は検査を希望されるので、“患者さんはみんな検査をして欲しいんだ”と勝手に判断してしまっていました。

今ではもちろん、検査の前に患者さんに必ず検査が陰性でも、そのあとの方針は変わらない可能性が高いことを説明してから検査を行っています。

最近検査の前に説明すると検査を希望されない患者さんが増えてきた印象を感じています。

「抗ウイルス薬(タミフルなど)を飲まないと治らない」という誤解

インフルエンザといえばタミフル、最近ではゾフルーザなど新しい薬も出ているのは聞かれた事があるかもしれません。

抗ウイルス薬と呼ばれるこれらの薬を飲まないと治らないということはありません。

インフルエンザの薬を処方するかどうかについて医師は2つのことを考えます。

1つは患者さんがインフルエンザが重症化するリスクを持っているかどうか、です。

インフルエンザが重症化するリスクの例としては以下のものがあります。

  • 高齢者
  • 妊娠中の方
  • 呼吸器疾患
  • 糖尿病
  • 腎疾患
  • 免疫不全状態

これらのリスクがある方であれば、医師は積極的に抗ウイルス薬処方を検討します。

逆に言えばこれに当てはまらない方であれば薬は必須とは言えないのです。

もう一つの要素は、薬の効果をどう考えるか、です

タミフルを内服することで得られる効果は一般的には、解熱するまでの時間が12-24時間ほど早くなる、です

これを医師、患者さんがどう捉えるかによって処方するかどうかが変わります。

半日〜1日でも早く熱が下がるなら薬が欲しい、というのも自然な考えですし、それくらいなら解熱薬だけで様子を見ようかなと考える患者さんもいます。(体感としてはこの説明をすると抗ウイルス薬を希望される方は6-7割の印象です)

まとめると、抗ウイルス薬はハイリスクに該当する人では原則使用した方がよく、それ以外の方については効果をどう捉えるかで希望次第といったところです。

「検査をしないと診断書がもらえない」という誤解

最後は診断書に関してです。「診断書が欲しいから検査をして欲しい」と言われることも多いですが、検査せずとも診断書はかけます。

むしろ、検査して陰性でもすでに説明したようにインフルエンザの可能性がかなりある場合もあるのでややこしくなります。

職場で「インフルエンザの検査は陰性だったけどインフルエンザの診断書もらいました」と説明しても職場の上司がここまでの話を理解していないと「?」となる可能性はあります。

なので、症状からインフルエンザが疑わしい、職場や家庭でインフルエンザが流行っているなどであれば、検査せずにインフルエンザの診断書を発行してもらうで問題ありません。

検査をしていないのでインフルエンザAかインフルエンザBかはわかりませんが、病名はインフルエンザとなります。

まとめ

  • インフルエンザは検査陰性でも否定できないので、インフルエンザを強く疑う症状では検査しなくてもいい!(医師が迷うような症状なら検査を提案します)
  • 抗ウイルス薬(タミフルなど)はハイリスクの患者さんでは使った方がいい!普通の人ならば熱が少し早く下がるだけ。
  • インフルエンザの診断書は検査無しでも発行できる!むしろ検査陰性だった時にややこしいかも。