芸能人が亡くなったこと知らせるニュースでよく「虚血性心不全」で死亡した。なんて聞くことがありますよね。
「虚血性心不全」てあまり聞き慣れない病気じゃないでしょうか?
実は虚血性心不全というのは正確な病名ではありません。
なぜ正確な病名ではないのに死因としてよく使われるのか?
虚血性心不全とはどのようなときに使われる病名なのか?
について、心停止の患者さんを診る機会が多い救急医がわかりやすく解説していきます。
目次
死因が記載される診断書、死亡診断書とは
人が亡くなった時には必ず医師が死亡診断書という書類を発行します。
その死亡診断書には死因が記載されるのですが、ニュースなどで報道されている死因はこの死亡診断書に記載されている病名であると考えられます。
ではこの死亡診断書の病名はどのように決まっているのでしょうか?
例えば肺がん、とか胃がんのように、すでに診断がついていて、その経過の中で残念ながら死に至った、という場合は死因に肺がん、胃がんという病名が書かれます。
これは当たり前ですよね。
ただし、これはすでに診断がついている場合です。
元々元気だった方が自宅で心肺停止の状態で発見され救急搬送された場合は事情が異なります。
心肺停止で救急搬送された患者さんの死因を医師はどのように判断するか
心肺停止で救急搬送された患者さんの場合、原因を調べる検査が十分できない場合が多いです。
特にCT検査は救急外来から移動しないとできない検査ですので、原則心臓が再び動き出さないと検査ができません。
また血液検査でも死因を特定できることはまれです。
なので、心肺停止で救急搬送されそのまま心臓が動き出すことなく死亡確認となった場合は医師は死因を推定することしかできません。
倒れる直前の症状(胸痛を訴えて倒れた、など)や、もともと通院中の病気などの状況から判断するしかありません。
死因としての虚血性心不全や急性心不全の意味
虚血性心不全や急性心不全は、もともと比較的元気だった(末期がんなどでない)方が、突然心肺停止となって救急搬送され死亡したときに使われます。
もともと元気だった人が突然心肺停止になった場合に考えられる病気はいくつかあります。
代表的なものは心筋梗塞です。
心臓の血管が突然つまってしまうことで、不整脈や心不全を起こして死亡します。
心筋梗塞以外でも、もともと心臓に何らかの病気を持っていて、突然不整脈を起こして亡くなってしまう場合もあります(若者の突然死の原因の一つです)
これ以外にも脳卒中や大動脈の病気などありえますが、いずれにせよCT検査ができていない状態では確定診断をすることができないことがほとんどです。
そこで医師は、突然心停止にいたる原因として確率的には心疾患が多い、そして心疾患の代表的なものは心筋梗塞だ、ということを頭に浮かべます。
それなら死因は心筋梗塞と書けば良いのでは?と思われるかもしれません。
ですが心筋梗塞という病名は、心臓の血管がつまったことを証明できない(カテーテル検査ができていない)状況でつけるのは医師にとって抵抗があります。
そこで虚血性(血液が不足している)心疾患、というややぼやかした表現を使う傾向があります。
これは急性心不全という病名が死因に使われた時もほぼ似たような状況です。
原因の診断には至っていないが、最終的に心臓の機能が低下して心停止にいたった、というニュアンスで使用されています。
病名に虚血性心不全や急性心不全という病名が使われていれば、
元々大きな病気がなかった人が救急搬送時にすでに心肺停止かそれに近い状態で、十分な検査ができないまま死亡した
と理解して良いでしょう。
まとめ
虚血性心不全という病名が死因がつくのはどのような時か、ということについて解説しました。
虚血性心不全や急性心不全という病名がついたということは、診断が確定できるような検査ができる状態に無かった、ということが推察できます。
医師が限られた情報や検査などから悩みながら死因を推定しています。