「先生の専門は何ですか?」
救急外来で診察していると、患者さんが僕の名札を見ながら
こんなふうに聞かれる事がよくあります。
「僕は救急が専門です」と当然答えるのですが
「あーじゃあ手術とか大変ですね」とかいう反応が返ってきます。
日本の救急のドラマと言えば「コードブルー」ですし、重症外傷を血だらけになりながら、時には病院の外でも手術したり・・・
なんてことはER型救急医の僕はしていないんです
でも実際には手術はしてないし、かといって内科だけを見るわけでもないです。大人も小児を見る救急医もいます。
そこでまずは日本の救急医って人たちが何をしている医者なのかをできるだけわかりやすく解説していきます
目次
日本の救急医は実は3つの専門家の集まり!

実は「救急医」と一言で言っても、得意な分野が同じとは限らないんです。
結論から説明すると日本の救急医は
- 外傷外科医
- 集中治療医
- ER型救急医
の3つの専門家の集まりです
(2つの領域にまたがって仕事をしている人も中にはいますが)
多発する交通外傷から外傷外科医の誕生
そもそも日本で救急医が出現したのは
1960年代の交通戦争と呼ばれた時代になるようです。
毎年15,000人近く交通事故で亡くなっていた時代です。
単純計算で毎日50人近く日本のどこかで交通事故で亡くなっていたわけです。
交通事故のやっかいなところは、一つの部位だけではなく、「頭とお腹」、とか「顔と胸と骨盤」とか複数の箇所に損傷が起こるので、脳外科医や整形外科医のような臓器別の専門家だけでは対応が難しいのです。
そこで各専門家と協力しながら、外傷の手術を得意とする外傷外科医が誕生しました。
全身管理のエキスパート集中治療医
ところが外傷診療は手術が終わった後も続きます
全身を損傷している外傷患者さんは手術後も状態が不安定であり全身管理が必要です。呼吸や循環の管理、感染症への対応や栄養管理などを得意とする
集中治療医の出番です。
もちろん昔は外傷外科医が手術から集中治療までをやる事が当たり前でしたが、現在は手術はせずに集中治療を専門とする医師が増えつつあります(まだまだ少数ですが)
ちなみに手術中の全身管理は麻酔科医の仕事ですが、それが術後の管理へ移行して麻酔科医出身の集中治療医も多いです。
北米型救急を実践するER型救急医
北米(アメリカ・カナダ)では救急外来を受診した患者さんは救急車で搬送されるても歩いてきてもER医と呼ばれる専門家が最初診療します。
子供から大人まで、内科も外科も関係なく全ての患者さんを診ます。
「眼が痛い」とか「鼻血が止まらない」とかも全てです。
それに対して日本はどういう仕組みかというと、まずは重症度で患者さんを運ぶ病院を分けます。具体的に重症であれば救命センターに、そうでなければ一般病院(2次救急という言い方もあります)へ運びます。
そして一般病院の救急外来の患者さんは内科医や外科医が診療します。(現在も多くの中規模病院ではそうだと思います)
一見問題無さそうですが、そもそも患者さんが重症がどうかを判断することは難しいです。救急隊も重症度を判断するプロですが、なんせ現場には時間も情報もありません。
重症度ももちろんですが、内科か外科かの判断も難しいです
「道ばたで倒れている人」を通りがかった人が発見して救急車を呼びました。一般病院の内科の医師が対応したところ、なかなか原因がわからず全身CTを撮ったら、首の骨が折れていたり、お腹の中に出血していた事がわかり慌てて救命センターへ搬送したとういう事例がありました。後で轢き逃げの被害者だとわかりました。
また転んで足の骨を折ったおじいちゃんを外科医が診療していたところ、実は肺炎で体調が悪くてふらついて転倒した事がわかった、というようなことも珍しくありません。
ましてや自力で受診する患者さんに自分が重症かどうか、何科の病気なのかなんてわかるわけないですよね。
これらの問題はER型救急医が対応するれば、スムーズに進む事が期待されますが
実はこのER型救急医、全然足りてません
救急科専門医は2019年の時点で約4000人いますが前述の通り、外傷外科医や集中治療医、そしてすでに現役を引退しておられる救急医を含んでいます。
おそらくER型救急医として最前線で診療している医師は1000人もいないでしょう
つまり救命センターでない一般病院にER型救急医がいることの方が稀です
これについては救急外来に24時間救急医がいる病院はまれ?で詳しく説明してますので是非読んでみてください。
日本ではまだまだ少ないER型救急医ですが、これから迎える(というかすでになっている)超高齢社会においてますます重要な役割になると感じています。
まとめ
- 救急医といっても「コードブルー」のような外傷外科医だけじゃない
- 超高齢社会においてはあらゆる病態に対応できるER型救急医が増える事が重要